ワイズコンサルティング・グループ

記事番号：T00124236

　穎崴科技は、テストソケットなどの半導体テスティング（検査）用部品の世界第5位のサプライヤーです。製品は、▽テストソケット、▽垂直型プローブカード（VPC）、▽制御モジュール──などで、ウエハーテスト、パッケージング・テスティング（封止・検査）、システムレベルテスト（SLT）まで対応しています。

　主な顧客は、▽グラフィックスプロセッサー（GPU）大手、米エヌビディア、▽アドバンスト・マイクロ・デバイセズ（AMD）、▽半導体パッケージング・テスティング最大手、日月光投資控股（ASEテクノロジー・ホールディング、ASEH）──などです。

　2024年の連結売上高は57億9800万台湾元、1株当たり純利益（EPS）は34.31元で、いずれも過去最高を更新しました。25年上半期（1～6月）の粗利益率は49％で、EPSは22.97元でした。

■200万元で自宅で起業

　創業者の王嘉煌氏は、機械工学が専門で、卒業後はASEH子会社の台湾福雷電子（ASEテスト）に勤めました。機構設計エンジニアから生産ラインの主管まで務め、機構設計、製造、部門間の調整スキルを習得しました。

　2001年、自宅で200万元を元手に起業しました。当初は代理店を手掛けていましたが、外資系企業は納期が長く、現地でのサービスが不十分だということに気づき、テストソケットの自社製造に変更しました。

■短納期の受注をチャンスに

　起業当初に転機となったのは、当時、世界最大のGPUメーカーだった冶天科技（ATI、後にAMDが買収）からの緊急注文でした。

　1週間以内にテストソケット10個を出荷するという内容で、わずか7万～8万米ドルの少額案件でした。王氏は、アピールするチャンスと考え、徹夜で設計図を仕上げ、プローブメーカーなどの協力を得て、7日間で生産、組立、テスト、検査まで終え、納期通りに出荷しました。その後、冶天科技は米国サプライヤーに発注していた注文を全て穎崴科技に切り替えました。

　2004年、半導体パッケージング・テスティング大手の矽品精密工業（SPIL）に無償でテストソケット2つ個を提供しました。SPIL経由で、エヌビディアのサプライチェーン（供給網）入りを果たしました。

■スピード対応が武器

　王氏は、穎崴科技の成功は、テストソケットが高度に統合されたカスタマイズ製品だからだと指摘しました。

　構造や信号、パッケージ、テスティングを理解し、顧客の量産のために、現場で原因を突き止め、即時に解決することが求められます。

　穎崴科技は、半導体テスティング大手の工場に2人以上常駐させています。治具の調整、機械のパラメーター、修理などを即時対応することで、信頼を築き上げました。

　例えば、顧客の歩留まり（良品率）に問題があり、出荷できないときに、テストソケットが問題なら、工場ですぐに解決できます。顧客が機械の設定パラメーターに不慣れだったり、操作やメンテナンスが不適切な場合も、予定通り出荷できるよう、常駐チームが協力します。

　王氏は「問題志向、現地・現物」で、たった1人で始めた会社を20年かけて、世界的サプライヤーに育て上げました。大口顧客と共同での研究開発（R＆D）や自動化、自社製造を強化し、レジリエンス（強靱性）を向上しました。

■4つの経営哲学

　王氏の経営哲学は4つに要約できます。▽責任を任せる、▽模範を示す、▽制度を見直す、▽デジタル化──です。

　「責任を任せる」では、董事長は戦略と重要顧客に注力し、副総経理や幹部（10年以上のベテラン）に研究開発や製造、営業を任せます。

　「模範を示す」では、顧客の立場に立って問題を解決することを求めます。誇りを持たせることで、人材定着を図っています。

　「制度を見直す」では、知的財産権とイノベーションを制度化し、特許と営業秘密を守ります。社員が業務改善のアイデアを提案し、採用されれば報奨金を支給しています。これまでに数百件の実績があります。

　「デジタル化」では、例えば、注文自動スケジューリングシステムを開発しました。社内外のデータベースを統合して、納期を即時計算します。納期の正確度を95％以上に高め、生産効率を90％に引き上げました。

　人工知能（AI）画像解析やSPC（統計的工程管理）の導入では、歩留まりとトレーサビリティ（追跡可能性）を向上しました。

　スマート製造の導入後、MES（製造実行システム）でプロセスを標準化し、技術者の育成期間は9カ月から3カ月に短縮できました。

■春節ボーナス8カ月分

　王氏が200万元で起業した穎崴科技は、今や時価総額448億元まで成長しました。従業員は1100人に増加しました。2024年は業績が過去最高を更新し、春節ボーナス（年終奨金）8カ月分を合わせて、年間で22カ月分を支給しました。

　今後は、技術と品質とサービスで、世界での地位を固め、北米や東南アジアを開拓し、IDM（垂直統合型の半導体メーカー）からの大口受注を目指しています。