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2026年1月25日、全世界の注目が台北市信義区に集まりました。米国のロッククライマー、アレックス・オノルドさんが高さ508メートルの超高層ビル、台北101を命綱を使わず素手で登るフリーソロに挑戦し、91分で登頂に成功しました。オノルドさんが腕を振り上げ、喜びの雄叫びを上げたとき、メディアのカメラは足元の鮮やかな黄色のクライミングシューズを捉えました。
オノルドさんは25日午前10時43分、当初目標の2時間を大きく下回る91分で台北101の最上部に到達しました(中央社)
イタリアのアウトドアブランド「ラ・スポルティバ」。その長年のパートナーが、台湾のアウトドア用の機能性シューズ受託生産最大手、鈺齊国際(フルジェント・サン)です。
■機能性シューズに参入
鈺齊国際は、宝成工業(PCC)と豊泰企業と並ぶ台湾の三大靴メーカーです。運営本部は雲林県にあり、主に研究開発、受注、購買を担当しています。生産拠点は、ベトナム、カンボジア、中国、インドネシアにあります。
顧客は、ラ・スポルティバのほか、ナイキ、デカトロン、ザ・ノース・フェイス、ティンバーランドなどが50社以上。主な製品は、登山靴、スノーシューズ、プロ用スポーツシューズなどで、ゴアテックスを採用しています。
董事長の林文智氏は、台中市の逢甲大学の応用化学系を卒業後、靴製造の基礎を台中市神岡区一帯の製靴集積地で培いました。大型の製靴工場で営業担当者や技術責任者を務め、靴の甲部(アッパー)の縫製から靴底の成型までの全工程を経験しました。
1990年代の初め、台湾の製靴業は産業の空洞化とコスト上昇に直面しました。多くの企業は、従来通りスポーツシューズを続ける道を選びましたが、林氏は困難ながらも別の道、機能性アウトドアシューズに目を付けました。
1995年、妻の廖源河氏とともに起業しました。資金は潤沢でなく、オフィスの冷房をつけるのも惜しむほどでした。
最初の注文を勝ち取るため、林氏はわずか10分間のプレゼンの機会を求めて、サンプルシューズを持参し、海外ブランドの本社の入り口で数日間待ち続けたこともありました。
アウトドアシューズ受託生産の難易度は、一般的な運動靴をはるかに上回ります。運動靴はクッション性とデザイン性を追求しますが、アウトドアシューズ(登山靴、クライミングシューズ、スキーブーツなど)は「生命の安全」に関わるからです。
■少量生産で優位性
林氏は起業当初、ゴアテックスを攻略するために、研究開発と設備更新に、ほぼ全ての運転資金を投入しました。
当時、1足でも防水テストに合格しなければ、受注した全ロットが廃棄処分となりました。ある時、数千万元相当の大口注文が、僅かな水漏れのために返品されました。林氏は反論することなく、三日三晩、幹部と共に工場で徹夜し、1足ずつ解体して原因を究明しました。
林氏の経営は、宝成工業や豊泰企業とは全く異なりました。大衆向けの運動靴市場で巨人に立ち向かうのは困難と理解していたからです。そこで、量産を捨て、多品種少量生産を選び、工場を「柔軟性の高い工芸実験室」にしました。
例えば、今回、オノルドさんが着用したラ・スポルティバのクライミングシューズは、極めて複雑な構造です。靴底のカーブ(ダウントゥ)がミリ単位で正確でなければ、クライマーが垂直の壁面で支点を見つけることはできません。
オノルドさんのチャレンジには、ネットフリックスの世界同時中継や、台北101周辺に集まった1000人以上のほか、台北101の中からも声援が送られた(中央社)
林氏は工場内に「特殊工芸専用ライン」を設け、こうした高単価で工程が複雑、少量の発注に対応しています。
他社なら生産ラインの切り替えが煩雑だと断る中、林氏は参入障壁を築くチャンスと捉えました。
■現場主義で海外展開に成功
林氏のマネジメントは、厳格さと情の厚さを兼ね備えています。生産ラインに対する精度の要求は、まるで軍隊並みです。あるとき、静電気防止靴を履かずに研究室に立ち入った従業員を、皆の前で叱責したこともありました。一方で、林氏はカンボジアやベトナムの工場の従業員寮に出向き、従業員の食事まで気を配ります。
こうした現場主義のスタイルで、鈺齊国際は海外展開で、極めて忠誠心の高い台湾人幹部のチームを築きました。
林氏が率いる台湾と海外の従業員1万人以上が、汗と執念で一針一針縫い上げた「世界一」の裏側には、国際社会の荒波で生き抜く台湾の中小企業のレジリエンス(強靱性)と職人魂があります。
■あとがき
本コラム「台湾流経営策略」は2007年のワイズニュース創刊当初から始めました。約19年間、235回の連載を通じ、筆者は、成功する経営者の秘訣とは「時代の鼓動を捉え、勇敢に挑戦し、継続的に革新すること」だと気づきました。彼らは、常に市場の風向きを嗅ぎ取り、失敗を恐れずに新しい方法を試し、成功した後も自己進化を続け、決してその場に留まることはありません。
筆者の定年退職に伴い、本コラムは今回で一区切りとなります。読者の皆様の長年のご支援とご愛読に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
荘建中
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