記事番号：T00125868

　電子機器受託生産大手、緯創資通（ウィストロン）傘下のサーバー受託生産メーカー、緯穎科技服務（Wiwynn）は、超大型データセンターとクラウド基盤向けに製品とシステムソリューションを提供しています。ODMダイレクト市場で常に上位5社に入り、シェアは20％を超えています。アマゾン・ウェブ・サービス（AWS）、グーグル、メタ（旧フェイスブック）、マイクロソフト（MS）などのクラウドサービスプロバイダー（CSP）大手にサーバーを供給しており、クラウドインフラの主要サプライヤーです。

　2025年第1～3四半期（1～9月）の1株当たり利益（EPS）は200.85台湾元で、上場企業の首位でした。

■ウィストロンから独立

　董事長の洪麗寗氏は、国立台湾大学政治学科を卒業しました。理系の出身ではありません。

　テック業界に入り、パソコン大手の宏碁（エイサー）、受託生産大手のウィストロンで営業、製品、サプライチェーンからグローバルオペレーションまで幅広く経験しました。

　12年、洪氏は自身の事業群にいた営業、研究開発（R＆D）、人事、財務などの部門に呼びかけて、クラウド事業に意欲があり、社内起業に挑みたい社員を集め、緯穎科技を設立しました。

　設立当初の資本金は9500万元でした。アセットライト経営で、当初はウィストロンに製品の製造を委託して人材育成、設計・テスト、システムインテグレーションなどの研究開発に専念しました。

　データセンターに絞って技術力を磨き、クラウドサーバーからラックキャビネットまで手がけ、売上高と利益が大幅に成長しました。

　19年以降、顧客の需要に応え、自社の生産能力を構築しました。

■非エンジニアの董事長

　洪氏は、さまざまな業界を経験し、極めて現実的で地に足の着いたマネジメントスタイルです。

　エンジニアではありませんが、質問する力、市場を読む力、方向を見極める力に長けていました。クラウド産業の高度成長とODMダイレクトモデルのトレンドを的確につかみました。

　洪氏が初めて接した海外のクラウドの顧客は、Tシャツ姿でピアスを着け、率直に話す若いエンジニアでした。洪氏は、ビジネスマナーがなっていないと考えるのでなく、未来の産業のリズムを感じ取りました。

　洪氏は、顧客のスピードに合わせて動けるよう、自社のチームに対し、開発工程を見直して開発期間を短縮するよう説きました。

　この発想の転換が、グローバルサプライチェーン（供給網）参入、その後の業績の急成長の土台となりました。

■感覚よりデータ重視

　洪氏のリーダーシップは、▽スピード感、▽データガバナンス、▽文化の拡散──が特徴です。

　緯穎科技は設立当日、全社クラウド化を宣言しました。社内システムに、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure（アジュール）」、SaaS（ソフトウエア・アズ・ア・サービス、サーズ）、データプラットフォームを導入しました。

　管理職の会議では、「感覚的には…」と言うことは許さず、データで話すことを求めました。

　洪氏は毎年、ハッカソン（集中的に作業するプロジェクト）を実施します。研究開発だけでなく、製造、財務、人事まで全員が、プログラミング言語のパイソン（Python）やローコード、BIツール（ビジネスインテリジェンスツール）などを使って業務改善を行います。

　財務部はほぼ全員が分析レポートを書けます。電子製造業では極めて珍しいことです。洪氏のボトムアップ文化をよく表しています。

■バトンをつなぐチーム

　洪氏は、スローガンを好まず、エース社員を求めません。「駅伝のようにバトンをつなぐ組織」を求めています。競争力とは、一人の強者を見つけることではなく、次々とバトンをつなげるチームを作ることだと管理職に語っています。

　人工知能（AI）時代の急速な変化に直面し、洪氏は緯穎科技の次のステージとして、▽グローバル展開、▽AIサーバー、▽サステナブル（持続可能な）設計、▽トータルソリューションの向上──を掲げました。AIモデルの巨大化と計算能力の需要が進むほど、緯穎科技のシステムインテグレーションは重要になります。