記事番号:T00130123
■知識への渇望
夕刻、会議室では業務フローの講習会が続いていた。長島総経理も同席したが中国語なので内容は分からず、パソコンを開いて自分の仕事をしていた。
講義の雰囲気から、想定以上にメンバーたちが苦戦していることは感じ取れた。
開始から1時間半、休憩に入った李経理に歩み寄り、彼は小声で尋ねた「どうだい?」。
「4人とも文系出身のためか、論理的な図解の基礎知識が想定以上に不足しています。少し時間がかかりそうですね」李は正直に現状を伝えた。
しかし、その瞳には光が宿っていた。
「ですが、確実に吸収し始めている手応えがあります。ご安心ください」。
「そうか。それなら私は席を外すよ」。
長島がデスクに戻ろうとすると、李が茶目っ気たっぷりに付け加えた「では、後ほど『おやつ』のタピオカミルクティーとエッグタルトをお届けしますね」。
■磨かれる原石
予定の午後5時を過ぎても会議室の灯は消えなかった。
7時前、長島がようやくパソコンを閉じた頃、メンバーのモエが「総経理、こちらへ!」と呼びに来た。何事かと駆けつけると会議室のテーブルにはピザが広げられていた。
「総経理もどうぞ」李が促す。
講習が終わったことを悟った長島は、メンバーたちの顔を見て驚いた。
数時間前まで困惑していた彼らの表情には、疲労の色どころか、未知の知識を得た高揚感が溢れていたのだ。
まるで、磨きを待っていた原石が内側から輝き始めたかのような生命力だった。
「みんな、新しい知識に飢えていたようですね」李が耳元で囁く。
「なるほど。これも業務改革の副産物か…」長島は感銘を受けた。
さらに、李が「ピザ代は頂いたポケットマネーの残りで買いました」と報告するのを聞き、(彼女は人の心だけでなく、お金の使い方も上手だ)と改めて舌を巻いた。
■理論と実践の壁
しかし、夜が明けて実戦が始まると現実は甘くなかった。講習で得たはずの「業務フロー」の知識も、いざ描き出そうとすると手が止まる。
「ここで条件分岐を入れたいんだけど、うまく繋がらない…」。
「そこは『MECE』で考えるって習っただろ?」。
「…ええと、MECEって何だっけ?」。
2歩進んでは1歩戻り、時には1歩進んで2歩戻る。
論理的思考の癖をつけるのは、一朝一夕にはいかない。メンバーたちの苦闘を横で見守っていた李はそっと溜息をついた。(しばらくの間は、外部の『助っ人』が必要かしら…)
彼女の脳裏には、ある人物の顔が浮かんでいた。それは、この停滞を打ち破るための、確かな確信だった。

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宇都宮武則
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