記事番号:T00130798
■迷宮の入り口
kintone(キントーン)の教育訓練を李経理に託した長島総経理は、別の大きな課題に直面していた。「デジタル化から、1人の社員も取り残さない」という自らの誓いだ。どうすれば、全社員のITリテラシーを底上げできるのか。李や劉協理に意見を求め、本社の同僚にまでメールを飛ばしたが、返ってくるのはどれも教科書通りの回答ばかりだった。
・専門講師による「ITリテラシー講義」の実施
・eラーニングの導入と修了試験
・社外研修センターへの通学支援
(これじゃない…。これでリテラシーが向上する姿がイメージできないんだ)知識を詰め込むだけの座学では、現場の「拒絶反応」は消えないだろう。長島は、再び解決策の見えない迷宮の入り口に立たされていた。
■秘密兵器「雛形」
一方で、kintoneの教育訓練は3日目という佳境を迎えていた。5人のメンバーと李は整理された業務フローの中から1人1種類を担当し自力でアプリを組み上げる実習に入った。
ここで講師が、李と事前に打ち合わせていた「秘密兵器」を披露した。「皆さんが迷わずアプリを作れるよう、『申請アプリの雛形』を用意しました。これをコピーして使いましょう」
講師が画面に映し出した雛形には、前日に全員が頭を抱えた「複雑な決裁プロセス」や「閲覧権限の設定」が、あらかじめ完璧に組み込まれていた。「これを使えば、皆さんは『申請画面のレイアウト』に注力するだけでアプリを完成させることができます」
講師の手本を見ながら、メンバーたちは目を輝かせた。難解な裏側の設定をスキップし、自分たちが考え抜いた「使いやすい画面」を作ることに集中できる。講師は1つ1つの手順を、全員が納得するまで丁寧に解説していった。
■四角い窓の向こう側
「はい、それでは皆さんの番です。雛形をコピーして、それぞれのアプリを作ってみてください。行き詰まったらすぐに呼んでくださいね」講師の合図とともに、会議室は心地よいタイピング音と熱気に包まれた。
今日も長島は、執務の合間に会議室の四角い小窓から中の様子を覗き込んだ。李が真剣な表情で挙手し、講師を呼び止めている。ケイは1度も顔を上げず、驚異的な集中力で画面に向かっている。一方で、ハルは首を傾げたり髪をいじったりと、どうやら苦戦している様子だ。(頑張れ…)長島には、彼らを見守ることしかできない。
しかし、その四角い窓の向こうで、昨日まで普通の事務職だった彼らが、自らの手で「会社の未来」を組み立てている。その事実に長島は言葉にできない確かな手応えを感じていた。

オフィス業務にkintone
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宇都宮武則
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