記事番号:T00131657
■差し伸べられた招待状
長島総経理がカバンから取り出したパンフレットには『経営塾 台湾新任編』と記されていた。前任の山本氏が引き継ぎの最後に「これを受講するといいよ」と笑っていたのを思い出す。
「孤独感」を消すには、自らコミュニティに飛び込むしかない。分かってはいても、台北市日本工商会や日本人会の会合は規模が大きく、交流のきっかけさえ作れなかった。
(山本さんも、この経営塾で人脈を広げてゴルフを覚えたと言っていたな…。もしかすると、これが今の自分を救う場所になるかもしれない)
長島は、週明けに営業担当へ連絡することを決め、少しだけ心が軽くなるのを感じた。
■レクサスで現れたエンジニア
週が明け、プロジェクトは4カ月目という中盤戦に突入した。長島は「2週間の遅れ」を挽回するための切り札を手に入れた。3カ月間、kintone(キントーン)を熟知するエンジニアが常駐する。
現れたのは、例の「助っ人」の丁くんだった。李経理に付き添われて挨拶に来た彼は爽やかな笑みを浮かべた。
「僕の会社でもkintoneを使っています。アプリ開発なら任せてください」。
その言葉は、もどかしい足踏みを続けていたチームにとって、何よりの福音だった。
しかし、長島の胸には消えない違和感があった。
丁くんが、連副総経理を「連おじさん」と呼んだこと。そして今日、彼は桃園市から「運転手付きのレクサス(高級乗用車)」で出勤してきたという。
(ただのパソコン会社の平社員ではない。彼はいったい、何者なんだ…?)
■「0から1」への静かなる決意
その後、総経理室では、李とのITリテラシー向上策の検討が続いていた。
李は、自社の現状を冷徹に分析して告げた。「我が社のITリテラシーは、現状『0』に等しいと言わざるを得ません。まずは着実に『0を1にする』ことから始めてはいかがでしょう」。
高望みをして組織が崩壊しては元も子もない。
長島もその意見に同調し、最初の目標を極めてシンプルに設定した。
「『ITを使えば今より便利になる、仕事が楽になる』。まずはそれをイメージしてもらう。これでは、ハードルが低すぎますか?」。
「そんなことはございませんわ。はじめは、その高さの着地点がよろしいかと存じます」と李が賛同した。
長島は、無関心を装う連副総経理の顔を思い浮かべた。この目標なら急進的な改革を嫌う消極派の反発も最小限に抑えられるはずだ。
「よし、これに決めよう」。長島が掲げた「誰一人取り残さない」という旗。それを降ろすことなく、2年の歳月をかけて全社員をボトムアップさせる。性急な成功よりも、確実な変容を選んだ瞬間だった。

オフィス業務にkintone
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宇都宮武則
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