記事番号:T00131287
■ルールの「本当の理由」
平日は多忙で、小学5年生の息子と顔を合わせられるのは週末のオンライン通話に限られていた。画面の向こうで、妻からタブレットを受け取った息子が、いたずらっぽく笑った。
「パパ、問題出すよ。──なぜ、教室はキレイにしないといけないのでしょうか?」。「ええっ…?」長島総経理は虚を突かれた。先生にそう教わるから、あるいは常識だから。理由など考えたこともなかった。「…学校のルールだから、だろう?」苦し紛れの答えに、息子は「してやったり」という表情で追い打ちをかける。「じゃあ、ルールがなかったら、汚し放題でいいの?」
長島は涙目で観念した。「パパの負けだ。教えてくれ~」
息子「教室が汚れていると、怪我をしたり病気になったりするからだよ」落ちている物に躓けば怪我をする。放っておいたゴミに害虫が集まれば不衛生になる。
息子「だから、みんなで話し合って考えたんだ。『どうすれば教室をキレイにできるか』をね」
長島は息子の話に、自分自身の仕事を重ねていた。ルールを押し付けるのではなく、なぜそれが必要なのかを理解し、自分たちで方法を考える。それが本来の改革の姿ではないか。
■縮まらない遅れ
週が明けるとプロジェクト開始から2カ月が過ぎていた。幹部会に臨んだ長島は実働隊がアプリ開発のステップに入ったことを報告した。しかし、同時に認めるしかなかった。「依然として、2週間の遅れは縮められていません」
あわせて、かねてより頭を悩ませていた「全社のITリテラシー向上方針」についても発表した。すでに相談済みの劉協理や李経理は頷いている。
だが、連副総経理の態度はいつも通り、凪(なぎ)のような無関心さだった。一向に意見を表明しようとしないその姿に、長島は一抹の不安を抱くのだった。
■闇の中の密談
その日の夜。連副総経理は夕食を済ませ、自宅のリビングで愛犬を撫でながら、お気に入りの時代劇を観ていた。
「あなた、電話が鳴っていますわ」
妻から差し出されたスマートフォン。画面には、ベトナムの「丁董事長」の名が表示されていた「…はい、連です」
「連さん、水臭いじゃありませんか!」受話器越しに、丁の大きな声が響く。「息子から聞きましたよ。何でも、エンジニアを探しているんですって?」
連は感情を抑えた低い声で答えた。「いやいや、私はITなどには全く関心がないものでね」。
丁「息子はランチをご馳走になった際、あなたから聞いたと話していましたが」
丁の言葉に、連は否定せず、短く返した。「…息子さんから聞いた通りだよ。よしなに頼みます」。
電話を切る間際、丁は深く重みのある声で「あなたは長男の命の恩人だ。私はいつでもお力になりたい」と告げた。

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宇都宮武則
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