記事番号:T00131422
■「自分事」への導火線
長島総経理は長いこと全社員のITリテラシー向上の施策を考え続けていた。
週末の息子が語った「教室の掃除」の話が彼の脳裏で巡っていた。
長島は李経理を呼び寄せ、着想をぶつけた。「決めたことを押し付けるのではなく、本人たちに不便さを自覚させて、気づかせる方策はないだろうか」
李もまた、組織の綻びを予見していた。「底上げができなければ、『不慣れ』を盾にITを避ける社員が出ます。そうなれば、不慣れな者の分まで仕事を押し付けられる『使いこなせる社員』が損をする不合理が生まれるでしょう」
「それは最悪だ」と長島は頷き、議論を深めた。「座学の研修はダメだ。自分事に感じてもらえない。誰しも日々の業務に不便を感じているはずだ。まずはIT抜きでもいい、理想の仕事の進め方を議論させるキッカケを作らないか」
1時間の打ち合わせを終えたとき、長島の頭を覆っていた霧はわずかに晴れ始めていた。
■消えない「エクセルの影」
一方、活気付いていたはずのプロジェクトチームには重苦しい空気が漂っていた。
kintone(キントーン)の教育訓練でアプリの形はできたものの、いざ実務を想定して「動作確認」を行うと、次々と不具合が噴出したのだ。
不具合は2つの壁となって立ちはだかった。1つは、レイアウトの配置不備や動作不良といった「アプリ本体」の問題。もう1つは、実務に当てはめると矛盾が生じる「業務フロー」の問題だ。
メンバーのコウが担当していたのは全社員の6割が関わる、月末の「費用精算」アプリだった。この月末の「費用精算」の煩わしさは長島も問題視していたことである。
そこにハルが加わる。フロー図を眺めていたハルが、ふと指を止めた。
ハル「ねえコウさん。このフローだと、これまで通り『エクセルの精算表』に記入してから、そのファイルをkintoneに添付することになってるよね?」。
パソコンを操作する手を止めてコウは、こう言い放った。「そうだよ。それが今のやり方だから」
ハルが間隔を空けずに言った。「…でも、それならエクセルは要らなくない? 直接kintoneの入力画面に打ち込めば済む話だよね」
コウはハッとしてフロー図を見直した。kintone側の設定や承認ルートのことばかりに気を取られ、入力元である「エクセル」という無駄な工程をそのまま残してしまっていたのだ。
「木を見て森を見ず」とはこのことか。
このようにアプリ開発の進捗は、3歩進んでは1歩戻る、もどかしい足踏みを続けていた。

オフィス業務にkintone
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宇都宮武則
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