ワイズコンサルティング・グループ

記事番号：T00113355

　鴻海科技集団（フォックスコン）傘下のプリント基板（PCB）世界最大手、臻鼎科技（ZDT）は、2022年の世界市場シェアは7％でした。リジット基板（RPCB）、フレキシブル基板（FPC）、高密度多層基板（HDI）、ICパッケージ基板（ICサブストレート、インターポーザ）などを取り扱っています。アップルや華為技術（ファーウェイ・テクノロジーズ）など向けのスマートフォン、ノートパソコン、ゲーム機などの消費者向け電子製品メーカーが顧客です。22年の連結売上高は1713億台湾元（約8000億円）で、1株当たり純利益（EPS）は15.02元でした。

鴻海の投資会社に

　董事長の沈慶芳氏は1952年に生まれました。農家の子で、幼少期から農作業を手伝っていました。表彰されるようなこともなく、大学入試の再試験で、中国文化大学の企業管理学（経営学）系に入学しました。

　大学の教授に勧められ、卒業後、毎日18時間勉強して公務員試験に合格し、中国輸出入銀行に入行しました。▽証券業の執行副総経理、▽リゾートホテルの花蓮理想大地渡假飯店（プロミスドランド・リゾート＆ラグーン）の総経理、▽PCBメーカーの耀文電子工業（ユニキャップ・エレクトロニクス）の財務副総経理──などを歴任し、鴻海傘下の投資会社、鴻揚創業投資の投資長（CIO、最高運用責任者）となりました。

門外漢でPCB世界首位に

　鴻海は当時、PCB市場に本格参入しようとしていました。中国広東省の深圳市に、フレキシブル基板の工場を設立する計画があり、鴻海の郭台銘（テリー・ゴウ）董事長（当時）は、沈氏を派遣しました。

　05年、沈氏は鴻海傘下のPCBメーカー、鴻勝科技（ZDTの前身）の董事長に任命されました。

　技術畑出身の同業他社の董事長と異なり、沈氏は財務畑出身でした。PCBの門外漢のように思われましたが、財務管理の専門知識と厳格な規律で、トレンドを把握し、会社の発展計画を立てました。

　沈氏は06年、「世界一になる」と公言しました。夢を見ていると笑われ、幹部やサプライヤーさえも、財務畑出身の董事長がPCBを理解できるのかと、半信半疑でした。

　ところが、08年以降、売上高は毎年100億元のペースで増加し、17年には、世界のPCBメーカー2500社の頂点、世界首位に登り詰めました。

データに基づきスピード判断

　沈氏の経営戦略は、大数の法則を利用して、何事も迅速に処理する「兵貴神速（兵は神速を貴ぶ）」でした。手元の数十冊のノートに、マクロ経済、ミクロ経済、産業分析、顧客の財務分析、競合他社の財務分析などを記し、いつでもデータに基づいて、経営判断と意思決定を下しました。

　沈氏の企業文化で重要な理念は、「団結とリソース共有」と、「派閥を作らない、争わない、不正を許さない」という3つの鉄則でした。その結果、団結力が強く、決定事項にすぐにリソースを共有し、対応できる組織ができました。

　沈氏は、数字による経営管理のほか、軍隊式の厳格さでも有名でした。午前7時40分に出社し、午後6時30分に退社する生活を15年間、毎日続け、部下の見本となりました。

誠実とフェアで成功

　沈氏は、ZDTの成功要因として、▽トレンドの把握、▽学習する組織、▽団結とリソース共有の企業文化、▽貢献に応じた報酬──のほか、「夜眠れなくなるようなことはしない」を挙げました。ZDTでよく聞く言葉で、誠実でフェアであれば、夜ぐっすり眠れるということです。なんでもない言葉のようですが、ZDTは年々厳しくなる環境規制の中、毎年表彰されました。

　沈氏は、時間の半分を人材探しに費やし、一人一人口説き落とし、自ら育成します。仕事では厳しいですが、実は従業員のことをよく気にかけています。幹部を家族のように扱い、育成や報酬、健康面まで気を配っています。

　沈氏が考えるZDTの成功の方程式は、「幸運×知恵×健康＝達成感＋所得」です。「幸運」は、他人を助ければ自分に報いがある「情けは人の為ならず」を意味し、「知恵」は、どうやって挑戦を乗り越えるかの知恵を意味します。

　成功の方程式は掛け算なので、一つでもゼロがあれば、どうにもなりません。つまり、健康が重要だと説いています。沈氏は、日曜にはハイキングや山登りに幹部を連れていき、健康と交流を促進しています。

30年にシェア10％以上へ

　沈氏は、ハイエンドPCBやハイエンドのICサブストレートに注力しています。30年に世界のPCB市場シェア10%以上、30年にICサブストレートの世界5位以内を目指しています。