記事番号:T00111765
バイクのSYMブランドで知られる三陽工業(SYM)は、台湾の自動車・バイク製造のパイオニアです。
2022年の連結売上高は前年比22%増の507億7500万台湾元(約2300億円)で、初めて500億元の大台に乗りました。純利益は31億1600万元、1株当たり純利益(EPS)は3.93元で、上場自動車メーカーの最高でした。
4人に1人がSYMのバイク
1954年、黄継俊氏と張国安氏の共同出資で、自転車用ライト生産の三陽電機廠が設立され、1961年に三陽工業に社名変更しました。
1962年、本田技研工業(ホンダ)の技術協力で、台湾で初めてのバイク製造メーカーとなりました。1967年にはホンダと自動車生産でも技術提携を締結しました。
2002年、ホンダと提携を解消し、SYMは韓国の現代自動車(ヒョンデ・モーター)と提携し、多数の自動車を生産するようになりました。
かつて台湾では、バイクに乗る4人に1人がSYMのバイクで、自動車は5台に1台がSYM製のホンダ「シビック」という時代もありました。
経営陣交代の復讐劇
1986年、黄氏の長男、医師の黄世恵氏が米国から帰台し、張国安氏を追い出しました。黄家と張家の軋轢(あつれき)で、SYMの経営は傾き、株価は低迷しました。
会社派(経営陣、黄家)の経営不振は、市場派(反対派、張家)にとってチャンスとなりました。
2011年、市場派がSYMの董事会(取締役会)に入り込み、2014年には市場派の吳清源氏が半年かけて張国安氏の息子の張宏嘉氏を取り込み、張宏嘉氏が役員改選で董事長に就任しました。「ハムレット」を思わせる復讐劇で、黄家を董事会を追い出し、2017年に張宏嘉氏が引退、吳清源氏がSYM董事長兼総経理に就任しました。
セブン-イレブン董事長
吳氏は1956年、新竹で生まれました。若い頃は建設請負会社で働いていました。2004年、新竹の不動産市場の急成長に目を付け、再開発計画に積極的に参入しました。農地を次々と住宅地や商業地に変え、「新竹の再開発王」と呼ばれ、数十億元の資金を築き上げました。
吳氏は当初、長期投資としてSYMに投資していました。2012年に董事会に加わると、黄家の家族経営で業績は悪く、数々の問題を抱えていることに気づきました。黄家と話し合っても効果はなく、経営権争いに発展しました。
2014年に経営権を掌握した後、SYMは3年連続で営業赤字を計上しました。吳氏は、自動車やバイクメーカーの経営について全くの素人で、経営状況の理解に努めました。
吳氏は不動産開発を行っていた当時、1日1時間しかオフィスにいませんでしたが、毎日12時間以上働いてから家に帰るようにしました。
吳氏は毎日、従業員より1時間早く出社し、誰より遅く、最後に電気を消して退勤しました。午前7時には会社に現れ、午後7時を過ぎても家に帰らないので、コンビニエンスストアよりも長く働く姿から、従業員に「セブン-イレブン董事長」と呼ばれるほどでした。
平日は仕事に忙殺される吳氏は、ストレス解消のため、仕事を家に持ち帰りませんでした。仕事は会社で終わらせ、家に帰れば仕事に一切触れず、心身ともに休むようにしていました。
3X3年計画で会社改革
吳氏は、会社を改革する3つの3カ年計画を立てました。最初の3年は会社を安定させ、次の3年は会社を発展させ、最後の3年に返り咲く計画です。
最初の3年は、▽エンジンと車体フレームの統合、▽流通の改革、▽部品センターの設立、▽部品の内製化──の4つの改革を推進しました。バイクのエンジンとフレームを複雑なものからシンプルなものに変えると、大量生産が可能になり、コストを低減できました。品質の管理が容易になり、製品の質が向上し、販売台数が増加し、評判も向上するという好循環でした。
次の3年では、▽準時(時間が正確)、▽準質(質が正確)、▽準量(量が正確)──を目標にしました。
準時は、全ての製品の開発を予定通りに完成させることです。準質は製品を研究開発(R&D)から製造、販売、アフターサービスまで、質を高めることです。準量は、市場規模や販売台数を正確に予測することです。
最後の3年では、2つの品質の倍増を目標に掲げました。2つの品質は、製品の品質と企業体質(企業イメージ、キャパシティー)のことで、企業体質が良ければ、高価格の製品が多くても売れます。
SYMはバイク市場で長年にわたり、光陽工業(KYMCO、キムコ)の背中を追っていましたが、2022年に首位の座を奪いました。9年前のシェア9%から、今やシェア40%に迫っています。
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