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第211回 ファウンドリー最大手、TSMC 劉徳音・董事長/台湾


コラム 経営 作成日:2024年2月23日

台湾流経営策略 台湾の名経営者

第211回 ファウンドリー最大手、TSMC 劉徳音・董事長/台湾

記事番号:T00113884

 ファウンドリー最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の劉徳音(マーク・リュウ)董事長は昨年12月、今年6月の株主総会後に退任すると発表しました。後任として、副董事長兼総裁を務める魏哲家(シーシー・ウェイ)氏が就任する予定です。

/date/2024/02/23/00liu_2.jpg劉・董事長(TSMC提供)

売上高と株価が2倍以上に

 劉氏は2018年6月、TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏から董事長を引き継ぎました。この5年間、▽米中貿易戦争、▽新型コロナウイルス流行、▽地政学的リスクの高まり──など、多くの試練に直面しました。

 また、▽米国、▽日本、▽ドイツ──での工場設立を決定し、TSMCのグローバル展開を進めました。

 TSMCの連結売上高は18年の1兆300億台湾元(約5兆円)から、23年には2兆1600億元まで倍増しました。株価は229元から、24年2月22日の終値で692元と、3倍に上昇しました。

思うようにやる経験

 劉氏は1954年に台北市で生まれました。国立台湾大学電機工程学系(学部)を卒業し、米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)で電気工学・コンピューターサイエンス(EECS)の修士と博士を取得しました。TSMCに入社する前は、米国の通信最大手のAT&Tのベル研究所やインテルに勤めていました。

 UCバークレーとAT&Tに在籍中、教授や上司から、自由に活躍できる場を与えられたことが最大の収穫だったと考えています。

 教授は、研究分野で何をしてはいけないかだけを告げ、何をすべきか指示することはありませんでした。ベル研究所の上司は、劉氏を責めることは一度もなく、いつも「アメージング(素晴らしい)!」と言って従業員を励ました。こうした環境で、劉氏はさまざまなチャレンジと成長ができました。

勘よりロジック

 劉氏は93年にTSMCに入社し、マネージャー、99年末にTSMCが買収した世大積体電路(WSMC)の総経理を経て、TSMCの経営トップに上り詰めました。

 劉氏が、TSMCの1500人もの博士号取得者の中で抜きん出たのは、研究の論理(ロジック)を製造に応用したからでした。

 劉氏は、同業他社がどの設備を購入したかを気にすることはなく、従業員に対し海外から広く情報を集めさせ、最適なソリューションを選びました。それまでの配管工事は先人の経験と勘に頼るのが常でしたが、劉氏はエンジニアに3D設計図を作成させ、徹底的に議論し、合理性を確認してから実行しました。

 TSMCの新竹科学園区(竹科)にあるFab3は、台湾初の8インチウエハー工場で、95年に量産を開始しました。同年8月には歩留まり率が90%を超えました。劉氏の徹底した現実主義が、高い歩留まり率につながりました。

 TSMCは08年、40ナノメートル製造プロセスを導入しましたが、歩留まり率がなかなか上がりませんでした。張・董事長(当時)が劉氏に助けを求めると、3カ月足らずで問題は解決しました。

 劉氏の歩留まり率向上の秘訣は、半導体の複雑な製造プロセスを丁寧に見ていくことでした。特にエンジニアとともに行い、エンジニアの考え方を理解することで、劉氏が重要業績評価指標(KPI)だけを見ているのではなく、興味を持って話を聞いてくれると感じさせました。

KPIより夢を描く力

 劉氏は、エンジニアはKPIだけでなく、夢とビジョンが必要だと考えていました。KPIだけにこだわると、達成しやすい項目しかやらず、イノベーションを阻害してしまうからです。

 「夢を見る力」を持たせるため、劉氏はいつもマネージャーと話し、夢を描かせ、「未来は非常にエキサイティング(ワクワクする)!」と感じさせました。

 劉氏のリーダーシップは、行動は冷静、厳格で、多角的に思考するスタイルです。常に難題を投げ掛けられ、試されるので、劉氏の部下でいることは容易ではありません。ボールを受け止めることができれば、劉氏に覚えてもらうことができます。

 劉氏は責任感が強く、張・董事長にどんなに叱られても、部下のせいにすることは決してありせんでした。

家族と過ごすため引退

 劉氏の妻は中国系アメリカ人の女性で、夫婦揃って敬虔なクリスチャンです。出勤前に二人はいつもウォーキングしています。健康的というだけでなく、夫婦仲の良さを表しています。劉氏は毎日、午前8時半に出社し、遅刻することはありません。

 劉氏は70歳で引退します。張氏が87歳で引退したのに比べれば、「かなり若い」といえるでしょう。引退の理由は、家族と過ごすためです。インターネット上では、米国工場の責任を取るためなど、さまざまな声が飛び交っています。

 劉氏のTSMCの持ち株は1291万3000株で、最近の株価で計算すると、時価総額は88億元以上です。引退後も、楽しいリタイア生活を送ることができるでしょう。

荘建中

荘建中

ワイズコンサルティング社高級顧問

 年間200回以上のセミナー講演を行い、法律、経営、人事、財務、人材育成など、多岐にわたるテーマを幅広く扱っている。なかでも難解な内容をわかりやすく伝えることに定評があり、参加者から高い評価を得ている。ワイズのエース講師として、どんなテーマにも柔軟に対応でき、ユーモア有る話術で魅力的な講演が可能。(言語)中国語◎

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