記事番号:T00069891
本コラム執筆の目的
ゴルフはリカバリーショットが大切だと言われますが、経営も同様です。
経営者としてリスクに備えるのは当然ですが、どれだけ備えていても想定外の危機は訪れるものです。
本コラムでは私自身が自社で経験した失敗とそれをどう克服してきたのかを紹介し、少しでも皆さまの経営のご参考になれれば幸いです。
●2000年の状況
前回ご紹介した通り、平日は台北でコンサルタントとして働き、人手不足の夜や祝祭日は台中の焼肉屋で老板(オーナー社長)と、二足のわらじが続いていました。
毎回台中から台北に帰るのは夜行バス(当時は台湾高速鉄路=高鉄はまだなかった)で、私が台北にいる間は家内は台中で老板娘(老板の女房)として働き、私が台中にいる間は3歳になる長男の顔を見に台北に帰るという生活です。
2人とも休みなしでしたが、収入も安定し、やりがいもあり、何よりお互い30代前半と若かったので充実した毎日でした。
特に私は台北にいるときはスーツを着て日本人経営者とお会いし、夜は接待等で和食を食べていましたが、台中では短パンにTシャツで台湾人の社員やお客さまと付き合い、夜は台中の屋台で見知らぬ台湾人と高粱酒(コーリャン酒)を飲み交わす生活は楽しいものでした。
さらにコンサルの仕事は全て自分でやらなければなりませんでしたが、焼肉屋は忙しいときのみ現場を手伝いますが、それ以外はお客さまのお相手が主な仕事でした。
●大先輩からのアドバイス
当時の私は「2社を経営している青年実業家」を気取り、2種類の名刺を自慢げに持ち歩いていました。
そのころのクライアント先に「台湾で成功した日本人起業家ベスト3」に入る社長さんがいました。
そんな大先輩から昼はコンサルティングで報酬を頂きながら、夜は飲みながら経営についてご指導を頂いていました。
当時は貴重なアドバイスも理解できても腹まで落ちないことが多かったのですが、今振り返ってみると全て大先輩の指導通りでした。
ある日、この社長さんから「二兎を追う者は一兎をも得ずだぞ…」とアドバイス頂きました。
若輩者だった私は「でも、今は両方うまくいってます」と反論しました。
「私も若いころはいろいろなビジネスに手を出したが、うまくいったのは今のビジネスだけだ」「そもそも一生で一つのビジネスがうまくいけば成功者といわれるのに、2つ成功するほど神はあなたをエコヒイキするだろうか?」とやさしく話してくれました。
私の「もし両方成功したら?」という愚問にも「両方成功したら手が回らなくなる」と、今思うと大変貴重なアドバイスを頂いていました。
しかし当時の私は「あなたはそうでも、俺は違う!」と心の中でつぶやいたのです。
●神のおぼしめし?
ある日、台北の仕事が終わり、バスで台中に着いたのですが、台北に帰っているはずの家内が店舗にいて「夜、話がある」と言います。
何の話か気になっていたのですが、店が忙しく、会話をする暇はありませんでした。
閉店後、いつもは交代で寝ていたアパートで焼き鳥をつまみに一緒にビールを飲んでいたとき、家内が重い口を開きました…
「子供…できた…」
私は急な話に驚いて「え~っ、そ、そうか~」と言うのがやっとです。
家内は続けて「加盟店の希望も度々頂くし、私はこの子は堕ろしてここまでやってきた焼肉屋を続けたい」「セントラルキッチンを作って店舗を拡大したい」と言うのです。
しばらく沈黙が続きました…
そのうち、多分ここまで頑張ってきた私を気遣う家内の発言だと気が付き、涙が溢れました。
思えば、ここ1年近く、休む暇もなく家内も私も気を張り詰めっぱなしでした。
今は緊張感で続けられてもこのまま何年も肉体的にも精神的にも続けられるわけはありません。
そのとき、先日の大先輩社長のアドバイスが頭に浮かんできました。
「二兎を追う者は一兎をも得ずだぞ…」
「焼肉屋はもうやめて台北で家族一緒に暮らそう!」と家内に告げました。
「でも焼肉屋の方がもうかるし、やめると言ったところで店を買ってくれる人はスグには見つからない…」
私は「神様から授かった命を無駄にはできない。流産したら困るので、1カ月以内に無料でいいから他人に譲ろう」と妻に告げ、営業を継続してくれる人を探しました。
ちょうど知り合いから「起業したけれど、ビジネスがうまくいかない」友人を紹介され、店を譲ることにしました。
「結構な投資をして苦労してせっかくここまでしたのだから、少しでも元を取らないと…」という家内をなだめ、食材も含めてタダ同然で店を譲ることにしました。
●リカバリーの結果
1カ月後、台北で長男と家内、そして私の家族3人で公園を散歩していました。
長男と家内の笑顔を見ていると「これが本当の幸せなんだろうな」と感じました。
さらに2カ月後、焼肉屋で中心となって頑張ってくれていた2人が私を訪ねてきました。
食事の希望を聞くと「台北の焼肉が食べたい」と言うので、当時一番もうかっているといわれていた店に3人で食べに行きました。
「店はどうだ?」と切り出すと「新しい老板は全然やる気がありません」「料理やサービスの質も大幅に落ちたので、われわれは辞めました」と言います。
「迷惑と苦労を掛けたな…」と言うと、「老板、台北でもう一度やりましょう!」「この店の味、価格、サービスならうちの方が断然上です」と提案してきました。
「申し訳ないが、本業はコンサルなので…」と断ると2人は下を向いていました。
その日は3人でチョット塩気の強い焼肉を食べて解散したのでした…
●今回の格言
「商い」は「飽きない」から「あきない」という。
運の流れに逆らってはいけない
〜情報漏えい、労働争議、与信、BCP…〜
経営者のリスクマネジメントのやり方
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吉本康志
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