記事番号:T00129321
■静かなる幹部会
本社からの「半年」という至上命題を背負い長島総経理はすぐに行動へ移った。招集されたのは、台湾拠点の屋台骨を支える幹部たちだ。購買部を率いる連部長(役職:副総経理)、営業部の劉部長(役職:協理)、そして長島の直轄である管理部の李副部長(役職:経理)。長島は一人ひとりの目を真っ向から見据えて方針を告げた。
「『業務改革5カ年計画』に基づき、台湾拠点でも抜本的な改革を開始します。基盤となるのはクラウドツール『kintone(キントーン)』。まずは管理部の社内申請業務から着手し、私がリーダーとなってプロジェクトチームを立ち上げます」。
反対の声は上がらなかったが、熱烈な賛成もない。特に連副総経理は手元の資料を眺めたまま終始上の空であった。だが、長島は動じない。(今はこれでいい。まずは形を作ることだ)
■司令塔としての役割
長島には確信していることがあった。それは、息子のあの通信指令室の感想文から得たもう1つの教訓だ。救急も消火も現場の隊員が優秀なだけでは回らない。全体を俯瞰し的確な指示を出す「通信指令室」と、それを受けて動く「出動隊」が揃って初めて1つのチームとして機能する。
「私が司令塔になり、メンバーが実働隊となる。この布陣で行こう」。
■4名の精鋭たち
週明け、長島は管理部の副部長であり、前任の山本が「実務も人心掌握も一流」と太鼓判を押していた右腕・李経理と共に人選を始めた。ターゲットはデジタルへの心理的障壁が低い世代だ。
ITに明るい者こそいないが、パソコン操作に長けた者、改善提案箱に熱心に投書する者、論理的思考に優れた者など、個性豊かなコウ、ハル、モエ、メイの4名が選ばれた。
ここに長島と李が加わる。
選ばれたメンバー4名は既存業務も並行しておこなうため、その分、メンバー以外のスタッフにも負担がかかることを長島は心配して李へ相談した。「李経理、他のスタッフに不満が出ないだろうか」
長島の懸念に、李は穏やかに、しかし自信に満ちた笑みを浮かべた。
李「ご安心ください。そのために私がいるのですから」。
李は言葉通り、その日のうちに管理部のスタッフ全員を集め、このプロジェクトが会社にとって、そして彼ら自身の将来にとってどれほど重要かを説いて回った。
彼女の根回しにより管理部内には「自分たちがプロジェクトメンバーをバックアップしなければ」という、静かな連帯感が生まれ始めていた。
長島は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。
独りでホワイトボードを眺めていた夜とは違う。今は共に走る仲間がいる。
台湾T精工の「業務改革」のエンジンが、ようやく低く力強い音を立てて回り始めた。

オフィス業務にkintone
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宇都宮武則
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