記事番号:T00128939
■託された「白紙」のバトン
山本総経理「海外拠点は本社から指定されたIT製品を導入します」。
隣に座る後任の長島氏が補足するように言葉を継ぐ「海外拠点はクラウド型の業務プラットフォーム、日本のサイボウズ社のkintone(キントーン)の導入が指定されています。サイボウズ社は、ここ台北にも支社があるそうですね」。
なるほど本社の意向は明確だ。私は尋ねた。「では、本社でもkintoneを活用されているのですか?」
「私が知る限りでは…」長島が記憶を辿る「人事評価制度の運用に使われていますね。『kintone人事評価システム』と呼ばれて重宝されています」。
山本「そういえば」と思い出す。「管理部が消耗品の入札業者選定に使っていたな。十年以上前から使っているらしいじゃないか」
長島「はい。元管理部だった私の妻からもそんな話を聞いたことがあります」
微笑ましい身内話に場が和む。しかし、この和やかさの裏で、台湾T精工の命運を懸けた「ゼロからのデジタル化」というプロジェクトが長島という新指揮官のもとで産声を上げようとしていた。
■「目的」という名の重圧
4月1日、長島氏は正式に総経理へと着任した。午後には本社との経営会議が控えており議題の焦点が「台湾のデジタル化」になるのは明らかだった。デスクに広げた『5カ年計画書』に目を落とした。業務改革プロジェクトの章。そこには力強い筆致でこう記されている。
目的:業務改革による利益の増大。デジタル化はそのための「手段」である。
kintoneを入れることがゴールではない。あくまで利益を出すための改革なのだ。しかし、読み進めるうちに、彼はある事実に突き当たった。
(さて…具体的に、台湾拠点は何をすればいいんだ?)
計画書には各論がない。出した結論は過酷なものだった「なるほど『私が考えて本社へ提案しろ』ということか」。
■見えない全体像
まずは現状把握だ。長島は知見も経験も豊富な部長たちを呼び、ヒアリングを開始した。だが出てくるのは業務の課題ではなく、積年の「愚痴」。デジタル化の話題を振れば、誰もが不得意意識からか器用に話を逸らしてしまう。長年アナログの現場を支えてきた熟練者にITリテラシーを求めるのは酷だと悟った。
ならばと、実務に明るい課長クラスへも話を広げた。営業課長は説明してくれた。営業部が見積書を出して受注する。しかし、その後の製品調達は購買課の領分。倉庫からの出荷は製品管理課、請求伝票(統一発票)の発行は会計課。
一つの「注文」が完結するまでの流れを把握するために、4部署を渡り歩かなければならない。(総経理本来の仕事が手につかなくなる…)
バラバラに点在する情報の断片。誰も全体像を語れない組織の壁。長島は、やり方を見直す必要性を感じた。
宇都宮武則
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