記事番号:T00109542
「いやぁ、参ったよ。本当に困った」「えっ?どうしたのですか?」困惑している日系T社H総経理に聞き返します。
「最近若手社員の定着が悪くてね。ワイズのセミナーでの情報だと、我が社の若手社員は賃金水準が低いようなので人件費をベテランから将来を担う若手に流動的に変化させようと。そこで日本本社の制度に倣って、60歳定年としてその後は給料ダウンにはなるけど再雇用する制度を組み込もうと。
すると管理部から『それは法律違反になります』と指摘されてしまった。いや、日本本社では…と言い返したところ、かなり強い口調で『ここは台湾です。日本ではありません。勝手なことをしないで!』と叱責されまして」
皆さま、こんにちは。ワイズコンサルティング佐藤でございます。台湾労働関連法規に慣れ親しんだ皆さまは「そりゃそうだろ」とお感じになる事例ですよね。
先回のこのコラムでは「賃金体系」のパンドラの箱を開ける話をいたしました。今回は賃金体系の中でも最も取り扱いが厄介と思われる「年齢」「勤続年数」にまつわる事例を紹介させていただきます。
先程「そりゃそうだろ」と思わなかった方がいらっしゃいましたら、弊社の労務顧問会員がおすすめです。
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なぜ勤続給が必要だったか?
さて、先の話に触れる前に、簡単ですが「歴史」と「文化・風習」についておさらいをいたしましょう。
台湾政府は1980年代後半から市場開放を進め、外国投資を促進。外資導入政策により、外国企業は台湾での投資や貿易において優遇を受けることができました。台湾政府はまた、外国企業に対する法制度や税制の改革を行い、ビジネス環境を改善しました。
日本に近く地理的にも好条件の台湾に対し、多くの日系企業が台湾に進出したのです。当然、台湾人社員を多く雇用し、子会社経営をしていきます。その際、日本同様の「終身雇用」的な思想を持ち込もうとしたのでしょう。
ところが台湾の労働に対する思想は日本とは異なっており、異なる業界や職種での経験を積み、キャリアを多様性させることによるステップアップが重視されていました。転職を通じて自己成長(給料を含む)を追求することはごく普通の考えなのです。
当時の駐在員は日本では聞いたことがない回数の「離職します」というセリフを耳にしたことでしょう。会社にとって有用な社員を失わないよう、すぐにできる施策にて対応せざるを得なかったようです。すなわち「賃上げ」です。さらに先手を打つべく「長く勤めてくれる社員」への恩恵的な賃金として「年齢給」「勤続給」を組み込んだケースも見受けられました。
金額は省略。このような年齢・勤続年数対応表が存在していました
当時の背景を考えるとこの施策は一概に悪いとは言い切れません。むしろ社員をつなぎとめる「良薬」であったかもしれません。制度は時代や世間の潮流に応じて磨き上げていかねばいけません。「我が社は昔から…」「日本の制度を…」の慢心が30年の時を経て「良薬」を「麻薬(足かせ)」に変化させてしまったかもしれません。
無条件上昇?
冒頭のT社の事例に戻りましょう。詳しく話を伺うと台湾操業以来、金額自体は上方修正をしてもルール自体は見直してこなかったようです。
基本給は年齢により加算される。勤続年数1年ごとに毎年◯台湾元を無条件で給料に付与する。評価による昇給は、最低評価でも一定金額は上昇。しかもテーブルには上限がない(いわゆる青天井)。金額を足し合わせると、それなりの額が「無条件上昇」となってしまいます。
業務パフォーマンスが落ちると言われる50代半ばを越えても同様にそれなりの額の「無条件上昇」状態が続きます。30年前の「給料上昇による離職防止」を絵に描いたような制度でした。
H総経理は私に「穏便に進めたいのだけど、何とかならない?」と泣きついてきます。「穏便にですよね?」「そう、法律違反やコンプライアンス違反は絶対にNGです」年齢給や勤続給を一概に悪いとは考えてはおりません。でもT社は大手術が必要な状態でした。
私は続けます。「総経理は覚悟を決められますか?」「えっ?覚悟?」「はい。30年間開けなかったパンドラの箱を開ける覚悟です」
さてさて、どうする?総経理。
次回「給与編 パンドラの箱 最終話 どうした?総経理」
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本文に記載の事例は筆者の実体験・実話を基にしたフィクションであり、実在の人物や団体などとは関係ありません。
佐藤豪紀
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