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大リーグで昨年最多勝を記録したニューヨーク・ヤンキースの王建民投手を知らない台湾人はほとんどいないでしょう。日本人もイチロー選手や松井秀喜選手ら多くの選手が活躍していますが、日本人ファンが純然たるスポーツ、娯楽の世界として彼らを応援できることと比べて、台湾人にとっての王建民投手の持つ意味は、単なる「世界的な超一流選手」以上のものがあります。
それはまさに、「誰もが心から応援できる」ことの一点に尽きます。台湾ではこれは貴重なことなのです。
台湾のたいていの一般市民は今、憂うつな気持ちで日々を過ごしています。仕事での重いストレス。家に帰ってテレビをつければ政治家たちの見苦しいののしり合い。景気もぱっとしないし、現代人の精神状態を一文字で表せば、「悶」がぴったりだという人がいましたが同感です。
何でもかんでも「独立・統一」の政治に結びついて、エスニックグループ(族群)間の不信感が消えない社会で、王投手が快投している時だけはそれを忘れられる。他の人と一緒に王投手に声援を送る時だけ、まるで別の世界にいるように感じられる。王投手は、まさに台湾人の心の支えと言っても過言ではありません。そんな王投手は、メディアなどで愛着を込めて「建仔」と表現されます。「仔」は「小僧っ子」といった感じの意味で、内向的で礼儀正しい王投手のイメージとはちょっと違う感じもしますが。また、「台湾之光」というニックネームもよく知られていますが、この「光」は日本語では「栄光」とか「英雄」というニュアンスに近いです。
台湾経済にも貢献
王投手が勝ち投手になった翌日は、大手紙の聯合報、中国時報、自由時報、大衆紙の蘋果日報がいずれも別枠の見開き4ページ紙面を通常の紙面にかぶせて売れ行きアップを図りますが、こんなことはこれまでになかった現象です。
王投手は「台湾経済に貢献している」ともいわれます。自動車業界は販売不振が続いていますが、昨年12月、王投手が福特六和汽車(フォード系)のテレビCMに登場するや、同社の展示ルームを訪れるお客は、それまでの2倍に増えました。台北市の公共交通機関で使用される悠遊カードが、王投手版を発売するや2万枚がすべてが数時間で売り切れました。
昨年最多勝に輝くや、王投手関連商品は爆発的に売れ、その権利金も10倍にふくれ上がり、かかわる業者に多くの富をもたらしています。スポーツ選手をイメージキャラクターに使うことはほとんどなかった金融機関も王投手を起用するなど、確かにその魅力が台湾の各業界を活気づけてる面があります。
小さな台湾から海を渡り、米国の大男たちをばったばったとなで斬りにしていく。胸のスカッとするこういうシーンをこれからもずっと応援していきたいと思います。
ワイズコンサルティング 陳逸如