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第26回 台湾における大前研一現象


コラム 台湾事情 作成日:2011年4月18日

台湾人研究所

第26回 台湾における大前研一現象

記事番号:T00029408

 台湾の出版業界で以前、3社の出版社が2週間という短い期間に、相次いで同じ日本人作者の本を発行したことがありました。そこまで本が売れる人気作者とは、経営コンサルタントで、経済評論家の大前研一氏です。

 行政院新聞局の出版年鑑によると、大前氏の著作は、台湾最大手書店、誠品書店の2002~09年の年間ベストセラーランキングで、ほぼ毎年、20位以内にランクインしています。大前氏は台湾で、「大前研一現象」という言葉を生むほどの高い人気を得ています。今回はその理由を見てみましょう。

政治への発言で注目集める

 大前氏の知識と未来を見通す洞察力は疑いのないものですが、なぜ台湾でそこまで有名になったかというと、一つには、台湾と中国の政治に対する大胆な発言がメディアに注目されたことがあると思います。

 1999年、李登輝総統(当時)はベストセラーとなった著作「台湾の主張」で、中国は東北や華北、華南、台湾、チベットなど7つくらいのブロックに分かれて互いに競争した方がよいという議論を展開し、注目を集めました。このいわゆる「中国七塊論」は、経済顧問として李政権にさまざまな提案を行っていた大前氏のアイデアだと言われています。そのころから「大前研一」という名前が台湾メディアに報道され始め、その鋭い言論と大胆な予測が注目を集めるようになりました。

 さらに、大前氏の06年の著作「ロウアーミドルの衝撃」も、M字型社会(総中流が崩壊し、低所得層と高所得層に二分化した社会)というキーワードが台湾で大きな注目を集めました。当時、野党だった国民党は、「M字型社会の形成は与党・民進党の無能さを示している」と政権攻撃を行いました。

 当時のニュースやテレビ番組、雑誌などのメディアでは、「M字型〇〇」、「〇〇がM字型化」というフレーズが頻繁に見られましたが、「M字型社会」を単なる「貧富の差」としてとらえ、「ミドルクラス(中流層)が消える」という点にはほとんど触れられていませんでした。このことから考えると、「大前研一現象」というのは、政界とメディアに注目されて生じたもので、多くの市民は、大前氏の言論を本当には理解していないのではないかと思います。

不安定な社会の安定剤

 ただ、当時06~08年ごろの台湾では、与野党の政治闘争によって政治、経済、社会のあらゆる面で停滞が深刻になっていました。そうした中、多くの人が、未来の方向を明確に描く大前氏の著作を心の安定剤として求めたため、盲目的な「大前研一現象」につながったのかもしれません。

 わたしも大前氏の著書を読むことがありますが、その内容を100%信じ込むようなことはしません。大前氏の経済や国際関係に対する予測がいつも当たるわけではないからです。大前氏が求めるのは盲信ではなく、新たな視点と思考の方向だと、すべての台湾人に理解してほしいです。

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