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第27回 台湾の村上春樹現象


コラム 台湾事情 作成日:2011年5月2日

台湾人研究所

第27回 台湾の村上春樹現象

記事番号:T00029700

  前回は大前研一現象を紹介しましたが、もし20~30代の台湾人に「台湾で一番有名な日本人作家といえば?」と聞けば、大前研一氏ではなく、村上春樹氏という回答が多いと思います。

 台湾碩博士論文知識加値系統によると、2002~09年の毎年、修士論文に村上春樹が取り上げられています。村上氏の小説は独特の表現で理解しにくいため、文学の研究材料に最適だと言われています。インターネット上でも村上氏の著作について討論・研究する掲示板やサイトが少なくありません。ですが、理解しにくいのに、なぜ人気があるのでしょうか。今回は筆者自身の経験と20代の弊社社員への取材に基づき、その理由を探っていきます。

高度成長期の孤独感

 村上氏の作品が台湾で初めて翻訳されたのは1985年のことです。当時の若者は高度経済成長でゆとりができ豊かな消費文化を享受しながら、激しい競争や複雑な人間関係で癒やしようのない精神的なむなしさにさいなまれ、村上氏の作中に漂う寂寥(せきりょう)感と喪失感に共鳴したのだと考えられます。それまで、こうしたスタイルの小説がなかったので、心の空白を埋めてくれるように感じられ、若者の間で一気にブームとなったのでしょう。

高い翻訳レベル

 村上氏の文章には独自の文法が使われているので、その翻訳は訳者にとって決して簡単な仕事ではありません。訳者となった頼明珠氏は、村上氏の小説に夢中になり、作品に使われている独特な文体と用語を忠実に翻訳しました。その描き方がそれまでの川端康成や三島由紀夫などの作品に比べるととても前衛的だったため、この異質な感じのする翻訳文がブームをさらに加速させました。賴氏はその後も村上氏の作品を翻訳しています。各作品の翻訳の質とムードが一致しているため、台湾における村上春樹現象=頼明珠現象と思う人も少なくありません。

計画的な出版とメディアの宣伝

 初めて村上氏の作品を手掛けた出版社、時報出版は、村上氏の作品ならではの雰囲気が商機につながると考え、長年にわたって計画的に村上氏の作品を台湾に紹介しました。96年には大手新聞、中国時報が台湾で初めて村上春樹特集を載せ、さらに注目されるようになりました。同紙は06年にも、村上氏による台湾読者の質問に対する回答を3日間にわたって掲載しました。このほか、音楽関係の店やカフェとのキャンペーンも繰り広げられ、いつの間にか村上氏の小説は上品で優雅、ファッショナブルなイメージとなりました。これが現在の村上春樹現象を維持している主因だと思います。

文学の高級ブランド品に

 私は高校時代から村上氏の本を読み始めました。ストーリーはあまり覚えていませんが、その独自の例え方と作品から伝わってくる無力感や孤独感が印象的でした。やはり若い高校生や大学生はこういうところが好きなのでしょうね。しかし社会人となり仕事に追われる毎日となると、そうした小説を読みたくなくなりました。そこで今は、村上氏の旅行エッセイや面白い短編集を仕事の息抜きとして読んでいます。

 村上氏の小説を100%理解できる人は多分少ないでしょうが、今回説明した理由によって、今や完全に文学の高級ブランド品となっているとわたしは感じています。

(取材協力:ワイズコンサルティング)

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