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第217回 杏一医療用品 陳麗如・董事長/台湾


コラム 経営 作成日:2024年8月16日

台湾流経営策略

第217回 杏一医療用品 陳麗如・董事長/台湾

記事番号:T00117007

 杏一医療用品(メドファースト・ヘルスケア・サービス)は、台湾最大の医療用品の流通業者です。主に医療用品・保健製品の開発と小売りを手掛けています。

/date/2024/08/16/20medfirst_2.jpg住宅街でもよく見かける薬局の杏一(筆者撮影)

 薬局の杏一(メドファースト)は台湾と中国に325店あり、病院内店舗は27カ所で運営しています。2023年の連結売上高は74億4600万台湾元(約340億円)でした。

 創業者の陳麗如・董事長は1964年に台南で生まれました。明志工業専門学校(現・明志科技大学)の看護学科を卒業後、林口長庚紀念病院(桃園市亀山区)で看護師として勤務し、副看護師長まで昇進しました。

 看護師時代、患者の血圧を測定している最中に、過労で倒れてしまうことがありました。また、退院したばかりの患者が酸素吸入器を購入できず、再び緊急入院したこともありました。

 陳氏は、これは大きな市場だと気づいたのです。

26歳で起業

 陳氏は1990年、26歳で病院を退職し、母親が互助会で貯めた10万元を元手に起業しました。

 病院の向かいにあるスペースを借りて店舗とし、自分でイラスト付きの宣伝チラシを作成して印刷し、病院で配布しました。血圧計、血糖値測定器、吸入器など、患者が必要なものは何でも調達して販売するという、医療用品の購入代行を行いました。

 最初は陳氏一人で店を切り盛りしていました。朝8時に店を開け、日中は電話対応、商品注文、在庫整理、その他の雑務をこなしました。夕方6時になると、店を閉め、病院に商品を届けに行きました。

 陳氏のやり方は、「医療機器を販売し、衛生教育も提供する」という、看護師としての経験を活かした、他の人とは一線を画したものでした。医療機器の使い方を詳しく説明し、さらに30分以上かけて在宅ケアのポイントなどを教えました。

 起業から8カ月間、一人で頑張り抜いたところで、業績が安定してきたため、従業員の採用を開始しました。

 92年、杏一医療用品を設立しました。「杏一」は、「杏林花開、一枝独秀(杏の花が咲き誇る中、ひときわ目立つ1本)」という、特別な存在や優れた才能を表す言葉から取りました。

コンピューター化が転機に

 その後、中南部の患者の退院や、従業員の昇進の機会を考え、支店を開設しました。当時は社内にコンピューターがなく、全ての業務を紙を使って、手書きで行っていたため、1年に1店しか出店できませんでした。

 そんな中、現総経理である陳氏の夫、蔡徳忠氏が、林口長庚紀念病院の行政管理課の課長を退職して杏一に加わりました。病院での管理方法を取り入れ、仕入れ・販売・在庫管理システムを構築し、コンピューター化を推進しました。

 これが転換点となり、杏一は急成長期に突入しました。

病院内の売店や飲食店も

 陳氏の起業時の志は、患者や家族が安心して自宅に帰れるようにすることでした。そのため、店舗は全て病院内に開設し、「治療医学」を重視していました。

 その後、「予防医学」にも広げ、2006年から地域に店舗を出店し、患者が自宅に戻った後も、利用できるようにしました。高齢者の長期ケアのため、必要な医療機器を簡単に購入できます。

 本業の医療機器販売のほか、02年から商業施設の開発や運営管理に参入しました。病院から、薬局だけでなく、病院内の商業施設の一括運営も依頼されたことがきっかけでした。

 病院内にショッピング街やフードコートを企画し、テナント誘致や運営を行いました。今や、杏一が一括運営している商業施設は、台湾と中国で合計27カ所に上ります。

 電子商取引(EC)サイトも始めました。スマート物流センターを16年に14億元を投じて建設し、20年12月に稼働しました

看護師の心で

 陳氏は、杏一の持続的成長の1つ目の理由は、プロフェッショナルと「三心二意」から成る企業文化だと考えています。

 起業当初から「医療機器を販売するだけでなく、衛生教育を提供する」ことで、専門性とプロフェッショナルなイメージを与え、他の医療器材販売会社とは一線を画してきました。

 「三心二意」は、愛心(思いやり)、耐心(忍耐力)、関心(心配り)と、最大限の誠意を持って顧客に満意(満足)を与えることです。

 2つ目は顧客対応です。陳氏は、サービスとは、スマイル(笑顔)、スイート(相手を喜ばせる話し方)、ソフト(物腰の柔らかさ)、スピードの4つの「S」と定義しました。

 3つ目は「看護精神」です。陳氏は常に従業員に対し、相手の立場になり、寄り添うことを求めています。例えば、顧客が来店すれば、商品を販売するだけでなく、顧客に関心を持ち、運動や体重管理、時間通りの服薬などの声掛けをします。

 杏一の成功は、在宅ケア用品への参入、病院そばや病院内など出店戦略のほか、従業員や店舗スタッフに医療や看護の知識があり、専門的な相談やサービスを提供できることです。ニッチ市場を的確に捉えた意思決定の結果でしょう。

荘建中

荘建中

ワイズコンサルティング社高級顧問

 年間200回以上のセミナー講演を行い、法律、経営、人事、財務、人材育成など、多岐にわたるテーマを幅広く扱っている。なかでも難解な内容をわかりやすく伝えることに定評があり、参加者から高い評価を得ている。ワイズのエース講師として、どんなテーマにも柔軟に対応でき、ユーモア有る話術で魅力的な講演が可能。(言語)中国語◎

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