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第220回 サーバー筐体の勤誠興業 陳美琪・董事長/台湾


コラム 経営 作成日:2024年11月15日

台湾流経営策略

第220回 サーバー筐体の勤誠興業 陳美琪・董事長/台湾

記事番号:T00118636

 勤誠興業(チェンブロ・マイコン)は、サーバー筐体(きょうたい)の世界最大手で、世界市場シェアは10%以上です。AI(人工知能)サーバー需要の急増で、2023年の連結売上高は前年比6.53%増の112億4700万台湾元(約540億円)で、過去最高を更新しました。

■印刷工場の秘書から起業

 創業者の陳美琪(マギー・チャン・メイ・ケイ)氏は、1956年に生まれました。大学入学共通テストの成績は、国立台湾大学の法律学院(法学部)に入学できるほど優秀でしたが、商学部志望だったため、国立政治大学の銀行学科(現・金融学科)に進学しました。

 卒業後、学問と実務の違いを痛感しました。英語のリスニングやタイピングが職業学校(専門学校)の学生に劣るため、就職活動で何度も失敗し、印刷工場の秘書に就職しました。

 職場である日、クラフト紙に包んでシールを香港に出荷したところ、届いた時には梱包が破損し、中身がバラバラになってしまいました。上司に「脳みその4分の1でも使えば、こんなことにはならなかった」と叱責され、基本スキルの不足を痛感しました。

 こうした経験をきっかけに、退勤時間を使ってタイピングを練習し、休日もサンプルを勉強し、少しでも追いつこうと努力しました。

■サービスと信頼で価値創造

 卒業から3年後、友人と共同出資で、プラスチック配管メーカーの鐶琪塑膠(ハーシー・バルブ)を設立しました。その後、コンピューター周辺機器の事業を手掛ける将来の夫と出会いました。

 83年、陳氏夫婦は弟と共同で、勤誠興業を起業しました。社名の「勤」と「誠」は、勤勉と誠実から取りました。

 当初は、台湾市場向けの事業を手掛けていました。材料の購入は現金で、売上の回収は手形だったため、事業が大きくなるほど資金繰りが厳しくなりました。

 そこで、回収条件がいい輸出事業を決意しました。薄利でなく、利幅が大きい製品でも、顧客に価値を認めてもらうためには、サービスと信頼が重要だと考えました。

 85年に台湾で初めて、IBM向けの横置きのデスクトップPC用の筐体を発売しました。翌年には世界で初めて、縦置き型のPC用の筐体を発売しました。

 こうした革新的な製品で、勤誠興業は世界で知名度を高めていきました。

■陣痛でも商談続行

 陳氏は起業当初、命がけで働きました。

 出産予定日が近づく中、米国の最大の顧客が台湾を訪れることになり、陳氏は貴重な機会を逃すまいと、病院で出産を待つのではなく、顧客と会うことを優先しました。

 顧客と商談中、陣痛が突然始まりました。陳氏が痛みで体を震わせるたびに、顧客の男性2人も震えあがり、陳氏が大粒の汗を流すのを見て、顧客2人は「お願いだからもうやめて!病院へ行って」と叫びましたが、陳氏は「支払い条件はどうしますか」と返答し、商談を成立させました。

■接待よりもカスタマイズ

 陳氏は、人付き合いが得意ではないと自認しています。ゴルフをやらず、あまり接待もしません。顧客と心を通い合わせて交流する機会は少ない分、業務に集中しています。

 例えば、海外の顧客は、ゴルフや接待よりも、カスタマイズを求めています。そこで、スピード、柔軟性、差別化、互換性を重視し、これらが勤誠興業の競争優位となっています。

 陳氏は、筐体の互換性を最大化するため、「Whatever inside, Chenbro outside」(中身が何であっても、外装はチェンブロ)とうたいます。どの会社にも対応できる筐体を提供するという意味です。

 陳氏は、最近の顧客はニーズをはっきり説明せず、スピード納品ばかりを求めてくるので、過去の経験から顧客の問題点や解決策を見つけ出せば、お互いの探り合いの時間を減らしながら、顧客の信頼が獲得できると話しています。

■顧客のニーズを徹底理解

 20年、勤誠興業は27億元を投じ、嘉義県鹿草郷の馬稠後産業園区に、自動化工場を設置しました。環境に配慮したグリーンビルディング(グリーン建築)で、美術館のような外観です。

 陳氏は、無理や無駄を排除する経営手法「リーンマネジメント」と「低コストインテリジェント製造(LCIM)」で、経営戦略、社員、顧客、製品の観点から、必要なものだけを生産しています。

 組織が大きくなり、現場の理解が不十分だと、顧客が何を欲しいのか、何に使いたいのか、徹底的に聞き出せず、ニーズの本質を理解できません。そうすると、良い製品を作っても結局は売れず、売り上げにつながりません。

 陳氏は幼少期を貧しい家庭で過ごし、大学時代は家計を支えていた人生を振り返りながら、こう話します。「だからよく言うんです。Impossible(不可能)は、I’m possible(私は可能だ)と」。

荘建中

荘建中

ワイズコンサルティング社高級顧問

 年間200回以上のセミナー講演を行い、法律、経営、人事、財務、人材育成など、多岐にわたるテーマを幅広く扱っている。なかでも難解な内容をわかりやすく伝えることに定評があり、参加者から高い評価を得ている。ワイズのエース講師として、どんなテーマにも柔軟に対応でき、ユーモア有る話術で魅力的な講演が可能。(言語)中国語◎

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