ワイズコンサルティング・グループ

記事番号：T00117508

　特力集団（テストライトグループ）は、台湾最大の貿易会社です。傘下には、ホームセンターの特力屋、家具チェーンの特力和楽（HOLA）、商業施設の特力広場などの小売り事業があります。特力屋は、台湾初の大型DIY（ホームリペア）用品の販売チェーン店です。

特力屋の新北市の新荘店（YSN）

　特力集団は、アジア、オーストラリア、欧米など世界12カ国・地域にサービス拠点16カ所、▽台湾、▽中国、▽ドイツ、▽米国──に物流センター、台湾には大型店舗が28店あります。

　2023年連結売上高は354億台湾元（約1580億円）で、従業員は4300人です。

業界唯一の女性営業員

　特力集団創業者の李麗秋氏は、台南の小さな眷村（外省系住民の集落）出身です。大学卒業後、花旗銀行（シティバンク）でしばらく勤務した後、貿易会社に入社し、掃除、郵便、お茶出し、工場へのサンプル発送などの雑務からスタートしました。

　真面目な仕事ぶりが認められ、営業職になりました。当時、女性が営業職に就くことは少なく、五金（金物屋、ねじやくぎ）業界では特に希少でした。

　李氏は業界唯一の女性営業員として、男性中心の業界で際立ったパフォーマンスを示し、「五金の女王」と呼ばれ、4年後、マネジャーに昇進しました。

　1970年代、台湾経済が急速に発展し、貿易が盛んとなり、台湾には貿易会社が50万社ありました。貿易会社は参入しやすく、李氏は起業を決意しました。

貿易会社を起業

　李氏は1974年、米国の顧客に応援され、貿易会社、秋記貿易を単独資本で設立しました。わずか5人、いす2脚でのスタートでした。

　多くの貿易会社の中で頭角を現すため、李氏は、売り買いを仲介するだけでなく、顧客の経営戦略や成長戦略を十分に理解した上で、ワンストップサービスを提供することで、他社にないバリューを作り出しました。

　李氏は当時まだ27歳で、顧客の多くは荒っぽい現場作業者でした。ある顧客は、若い女性だからと見下し、李氏に「ビンロウ（檳榔）を一つ噛めば、コンテナ1杯分の貨物を出すよ」と言ってきました。李氏はためらうことなく檳榔を噛み始め、その顧客はおとなしく貨物を出荷するしかありませんでした。

　李氏は従業員を家族のように大切にしています。皆の協力で事業は軌道に乗り、あっという間に100万台湾元（約440万円）を貯めました。

3カ月で結婚、夫を総経理に

　1978年には、特力貿易に社名変更したほか、後に夫となる何湯雄氏（現・特力集団の総裁）が検品担当者として入社しました。

　何氏は、李氏の個性と能力を高く評価し、周囲の目を気にせず、社長である李氏に猛烈にアプローチし、わずか3カ月で電撃結婚しました。

　李氏はビジネスで大胆でしたが、結婚相手にも大胆でした。当時部下だった何氏と結婚した翌日、総経理のポストを夫に譲り、李氏はマネージャーに退き、2人で会社を運営しました。

　社会的地位も経済的地位も大きな差があったため、サプライヤーから「必ず離婚する」と言われていました。

　2人は衝突を避けるため、役割分担を決めました。一緒に顧客を訪問する場合は、李氏が交渉を担当し、ビジネスがまとまれば、何氏がその後の付き合いを担当しました。公式の場には何氏が出席し、李氏は表舞台に出ず、裏方に徹しました。

　何氏の野心がなければ、特力集団はこれほど大きくならなかったでしょうし、李氏の実行力がなければ、特力集団は存続できなかったでしょう。

小売りに進出

　特力集団は1993年、小売業に進出するため、株式を上場しました。

　95年、英国のDIY大手、B＆Qと合弁で、特力屋を設立し、桃園県南崁（現在の桃園市）に初の店舗を出店しました。

　続いて98年、自社ブランドのHOLAを設立しました。当初は、顧客ターゲットの設定があいまいで、安価な電球から数十万元もするシャンデリアまで何でも売っていました。その結果、5年で損失は50億元に上りました。

　そこで、来店客の年齢、収入、好みを細かく分析しました。年収80万～120万元の層をターゲットに絞り、中高級・高級家具を中心に、デザイン性の強い商品を展開し、翌年には黒字転換を果たしました。

自分一人では成功しない

　李氏は、現代社会は変化が激しいので、経営者でも、他人と協力し、成功するのは自分でなくても構わないという姿勢が重要と考えています。

　李氏は二人三脚に例え、顧客でも企業でも成功するには、協力し合うことが必要で、個人戦ではないと語りました。

　特力集団は、何氏が「アイデア王」で、李氏は会社の土台を固め、強い実行力で会社を安定させることに長けていました。それぞれの強みが、特力集団の成長と安定につながりました。