記事番号：T00014942
台湾のモーテルの歴史において、「薇閣」は無視できない存在だ。薇閣精品旅館（We go）の出現が、モーテルの常識を全く新しく塗り替えたからだ。
薇閣林森館は2001年、台北市のナイトスポット、林森北路エリアの中心2,600坪の土地に４億台湾元（約11億6,000万円）をかけて建てられた。薇閣精品旅館の董事長、許調謀氏は、これまでの宿泊施設の概念を打ち破り、６つのテーマに沿った32種類もの客室を、１室当たり500万元かけて作り上げた。利用客に同店にしかない価値を感じてもらい、新しいシティライフを楽しんでもらいたいと考えたのだ。
客室ごとにデザインを変え、そのためにふんだんに内装費をかけたり、メディアを通じて大規模な宣伝を行ったりといった試みは、台湾の「愛情産業」で初めての試みだった。愛し合う２人がこっそり訪れるところ、というこれまでのモーテルのイメージを大きく変え、週末や祝祭日には同店に入るために並ぶ車の行列が数百メートル続くようなオープンな雰囲気を生み出した。そして、「薇閣に行こう」という言葉が、ロマンチックでちょっぴり刺激的な愛情表現になったのだ。
「以前のモーテルといえば、人に言えない関係を持つ人や、恋人たちがこっそり通う場所だった。しかし薇閣の出現で、今やモーテル利用客の３割が夫婦だ」──許董事長はそう胸を張る。
１日1000組が来店
薇閣の統計によれば、薇閣林森館の87室には、年間延べ36万人のカップルが訪れる。１日1,000組のカップルが薇閣でデートしているという計算だ。薇閣林森館では、利用客の回転率が500％を超え、１日平均100万元を売り上げる。
薇閣ブームに乗じて、今や台湾のモーテルは800軒を超え、既存市場、中国語でいうところの「紅海」での競争が繰り広げられるようになった。そんな中、薇閣は自社の位置付け（ポジショニング）をはっきりさせ、細部まで注意を払い、常に新たな分野を切り開き、新規市場＝「藍海」に泳ぎ出す戦略で対抗している。
秘訣は女性を喜ばせること
許董事長は、米経営学者、フィリップ・コトラー（Philip Kotler）の言葉を借り、薇閣の成功の鍵は「理解を深め、顧客満足を実現すること」と強調する。「女性が喜べば、男性はメンツが立てられる。これこそがリピート客を生む秘訣だ！」
女性に気に入ってもらえるよう、薇閣にはさまざまな仕掛けが施されている。例えば、鏡。許董事長によると、浴室の洗面台と鏡の距離は普通、50センチメートル以上あるが、これでは女性が化粧しづらい。そこで、この距離を15センチに縮めた。薇閣では女性がさらに美しくなれるということだ。
また、普通の宿泊施設には髪をまとめるゴムやヘアピン、乳液などが備え付けられているが、薇閣ではさらに▽消毒液▽整髪料▽エッセンシャルオイル▽コンタクトレンズの洗浄液▽女性誌▽女性の足のサイズに合うスリッパ──などなど、20点以上が常備されている。これらの備品は持ち帰りも可能だ。こうした気配りが、女性の心をぐっとつかむ。
「薇閣は大人にとっての遊園地だ。カップルが仲睦まじくしているとき、女性の方から『薇閣に行きたい』と言ってくれることほど、うれしいことはない」と許董事長は語る。
居場所をごまかすリモコンも
薇閣は、利用客の都合を考慮し、室内に２つのドアを設けている。そのため利用客は、スタッフが届ける食事を受け取るため、わざわざ服を身につける必要はない。
また、それぞれの部屋に備えられたリモコンには、「シチュエーションボタン」がついている。知られたくない相手、例えば奥さんからの電話で居場所を聞かれたとき、ボタンを押せば、駅にいるかのような音声を流すことができるというものだ。これもまた、許董事長が考える顧客満足の一環だ。
「お客様の喜び、それだけでは物足りない。われわれは、心から満足してもらえるまでとことんやり抜く」。許董事長はそう語る。
薇閣は今、台湾に４拠点ある。中でも今年オープンしたばかりの台北市大直旗艦店は、贅（ぜい）の限りが尽くされている。台湾トップクラスのデザイン会社５社、デザイナー20人以上に依頼し、デザイン料だけでも4,000万元に上る。客室は45のテーマに分かれた33タイプで、１室当たり1,050万元が投じられた。かわいい回転木馬が楽しめる「夢の楽園」、北京五輪のメインスタジアム「鳥の巣」がコンセプトの「白い森林」のほか、「米国の踊り子」、「上海の夜」など、その部屋だけの特別な雰囲気が味わえる。
皆さんも一度、薇閣を訪れてみてはどうだろうか。筆者のように「そんな機会に恵まれない！」という方には、同社ホームページをぜひご覧いただきたい。
http://www.we-go.com.tw/dazhi/index.aspx
ワイズコンサルティング 荘建中
