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第49回  聯発科技董事長 蔡明介氏


コラム 経営 台湾事情 作成日:2009年11月13日

台湾流経営策略 台湾の名経営者

第49回  聯発科技董事長 蔡明介氏

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 IC設計最大手の聯発科技(メディアテック)の董事長で、「台湾IC設計業界の神様」と呼ばれる蔡明介氏は、工業技術研究院(工研院)を経て、1983年に聯華電子(UMC)に入社。商品開発部で力を発揮するが、その後、35人の同僚を引き連れて97年にメディアテックを設立した。01年には1株278元(約771円)で株式上場。上場初日、株価は上昇を続けて一夜で台湾の「台股股王(台湾株の王者)」となった。その後も業績はうなぎ上りで、08年の売上高は904億元に達した。

 メディアテックが世界10大IC設計企業の1社と言われるまで成長した鍵は、蔡氏個人の力量にあると言われる。その力量とは、ずばり、人々が求めるものを見抜く先見の明、そして市場動向を把握し、チャンスが起きるタイミングをしっかりつかめることにある。

 蔡氏は人材育成を非常に重視する。かつて米インテルの例を挙げてこう語ったことがある。「トップ企業がその座を維持できるのはその豊富なリソースにある。そして、そのリソースとは資金ではなく人材なのだ」と。メディアテックの成功は、蔡氏の完ぺきな展開力と、社員の育成によって生まれたのだ。
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社員を育てる3C

 メディアテックの人材育成は、「compensation(報酬)、care(配慮)、challenge(挑戦)」の「3C」を基本にしている。compensationは、給与の高さではなく賞与制度を指す。高額な自社株現物支給(分紅)や、プロジェクトごとの賞与、問題を解決した際の「突破賞与」などを設けて社員の意欲を高めている。

 careは、福利厚生や訓練制度の充実を意味しており、メディアテックはこれに一切費用を惜しまない。例えば新竹市の同社本部は、設立の際に1,800台を停められる駐車場を設置した。社員が出勤する際、駐車で不快な思いをすることがないよう、ひとりひとりのために配慮したのだ。 challengeは、勇気(ガッツ)を持ち、困難と分かっていても取り組む気持ちを社員全員で共有することを表す。最高の技術を創るため、常に挑戦し続ける姿勢を重視している。

「王座保持」と「製品周期のS曲線」

 蔡氏は企業戦略を語ることを好む。最も有名なのは、「一代拳王(一代のボクシングチャンピオン)」と、「製品周期はS曲線を描く」という持論だ。

 ボクシング選手は苦労して練習を重ねてチャンピオンになっても王座を維持することは難しい。チャンピオンである期間は長くないことが多い。蔡氏はこのことをIC設計業界に例える。

 製品の変化のスピードは速く、絶え間なく続く。その中で市場が今、何を求めているかを察知し、方向性を素早く調整し、さらに競争力の核となるものを創りださなくてはならない。そうでなければ、多くのボクシングチャンピオンのように、1回や2回は防衛できても、やがては王座を失ってしまうという考え方だ。

 「製品周期のS曲線」とは、時間を横軸、市場規模を縦軸とし、新技術や新市場の周期は左下からカーブが起こり、右上までS曲を描くというものだ。新製品を出すタイミングが早過ぎれば、市場はまだ形成されていないため費用だけがかさむ。逆に遅過ぎれば激しい競争に巻き込まれ、敗者となれば最悪の結果だ。

 すなわち、企業は常にどの時期にどの製品を打ち出していくかを判断しなければならない。新技術や新製品がS曲線を描くとき、どのポイントでマーケティング戦略を立案し、研究開発(R&D)を行い、特許戦略を図るのがベストなのか。それを細かく考えていく。「製品周期のS曲線」は、会社の研究開発、製品計画の重要なよりどころだ。

 蔡氏はこの持論に基づいて、確かな製品を創りだすだけでなく、その製品の周期を把握し、正しい時期を選択して市場展開を図ってきた。メディアテックが、光ディスク市場がCD-RからCD-RW、DVDへと変化する中で確実に業績を上げてきたのは、まさに蔡氏独自の戦略を実践してきた結果なのだ。

 蔡氏はメディアテックがDVDプレイヤー用チップの分野に参入した際、自社の位置付けについて、単なるチップ製造メーカーではなく、全体の枠組みを解決する方案(turnkey solution)の提供者だと認
識したという。

ターンキー・ソリューション

 このことは携帯電話のケースで見れば分かりやすい。メディアテックが開発した携帯用チップによって、携帯電話はより安く、より簡単に生産できるようになり、中国で「山寨機」と呼ばれるノーブランド携帯を多く生み出すまでになった。携帯電話各社の激しい競争の中で、メディアテックはいわば武器を提供するサプライヤーとなったのだ。戦場で誰が勝ち、誰が負けるかは関係ない。メディアテックは武器提供者として最大の受益者となったのである。

 その昔、米国西部はゴールド・ラッシュに湧いた。皆が一獲千金を夢見て、砂金の採取に走った。しかし最後に利益を得たのは、砂金を採取した者ではない。砂金採取に使うシャベルやジーンズを売っていた者である。メディアテックはまさに、人々がゴールド・ラッシュに湧く際の、シャベルやジーンズを売る企業に例えることができる。


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