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第34回 裕隆集団執行長 厳凱泰氏


コラム 経営 台湾事情 作成日:2008年9月12日

台湾流経営策略 台湾の名経営者

第34回 裕隆集団執行長 厳凱泰氏

記事番号:T00010187

 
 8月11日のワイズニュースで「『自動車界の女王』、呉舜文・裕隆企業総裁が死去※」と報じられたように、裕隆集団はその精神的支柱を失った。しかし、幸いにも同集団の世代交代は既に完了していた。

https://www.ys-consulting.com.tw/news/9448.html

 厳凱泰氏は1990年、25歳の若さで裕隆集団執行長に就任した。当時同集団は経営状態が落ち込み、誰もが先行きに懸念を抱く状況の中、ばかにされ恥をかくことを覚悟しての就任だった。

 裕隆は93年から連続して赤字を計上し、厳氏は「負け犬」の名で呼ばれた。しかし彼は若者特有の情熱と行動力で2度に渡る大規模な企業改革に取り組み、その結果裕隆は不死鳥のごとく新たな企業として生まれ変わった。

核心を突いた企業改革

 2度に渡る改革のうち、第1段階(94~95年)では、「工場と事務の統合、工程の見直し」を核とし、生産拠点を台北から苗栗県三義郷へ移転し、一気に600人の人員削減を行った。離職・退職手当に7億台湾元(約23億5,000万円)の支給が必要となったが、人員を集中したことにより生産工程における連絡がスムーズとなり、その後コミュニケーションが滞ったり、対応が遅れたりするようなことは二度となくなった。

 第2段階(96~98年)では、差別化戦略を打ち出した。それまで台湾の自動車産業界には、「エンジニアの声が第一」とする伝統があったが、厳凱泰氏はこれを打ち破り、「高品質、素早い対応、市場に忠実」を基準として新たな作業工程を作り上げた。

 緻密な市場調査を行い消費者の需要を十分に見極めた後、日産セフィーロを台湾の消費者の特性に合わせて細部を調整し、域内生産車として導入した。そして「製品の品質、サービスの差別化、価格の優位性」を強調し、加えて完璧なマーケティングと広告によるイメージ戦略を実施したことによって、セフィーロは台湾で初めて輸入車に引けを取らない高級セダンに成長した。裕隆は97年度、51億元を超える空前の利益を計上した。

部下の心をつかむ流儀

 厳凱泰氏の経営理念は「心を込めて頭を使い、頭を使って人を動かす」というものだ。たとえばある年、三義郷のタール塗装工場で大火災が発生した。被害は深刻で、同工場の再稼働には半年の時間がかかり、その間生産および出荷がすべて停止するという想像したくもない事態となった。

 従業員が我が身を省みずに行動を起こし、けがをしたり命を落としたりすることを恐れた厳氏は、すぐさま「従業員の安全が最優先」とする指示を発した。その後火災現場の視察に訪れた際、工場の管理者に事態の把握を求めると共に、「火災で工場を失ったからといって業績に影響を出してはならない」と強く言った。

 後日、火災事故に対する責任の追及が行われた。火事は生産ラインに携わっていた従業員の過失により発生したものだったが、処分は工場長とさらに地位が一段階上の協理に対する「監督不行き届き」のみにとどまり、末端の従業員は責任を問われなかった。厳氏は、末端の従業員を処分しても、組織内で責任のなすりつけ合いとわだかまりを生み、工場再開への集中力と積極性が損なわれるだけだと考えたのだ。

 上に立つ人間である工場長と協理に責任を負わせたことにより、従業員たちの間に「贖罪感と感謝の念」が生まれ、残業をいとわずに工場再建に取り組み、生産の外注引受先を探して走り回ったのだった。その結果裕隆は同年、工場を失ったにもかかわらず創業以来50年で最高の利益を獲得した。

 古くからの裕隆幹部は厳氏について、「火事が起きたとき真っ先に従業員のことを心配した。これは『心を込めて頭を使う』ということだ。火事が起きても業績目標を変えなかったのは、『頭を使って人を動かす』ということだ。こんな人物ならみんながついていくのも無理はない」、と分析している。

 厳凱泰氏は仕事では容赦なく厳しい要求を突きつけるが、実際は人間的な感情を重視しており、仲間とふざけ合ったりするのが大好きな性格だ。厳氏は忙しい仕事の合間を縫って注意深く従業員の生活に気を配り、宿舎、職場環境、設備、食堂、健康など、できるだけ従業員が満足して働けるよう尽力している。

 仕事では責任を持たせることを重視し、結果で賞罰を決定する。部下たちは彼のリーダーとしての流儀を、「目標を持たせて、枝葉にはこだわらず結果だけをみる。結果が悪ければもう一度チャンスを与え、それでも悪ければ切る」と説明する。

 自ら改革者の役割を演じ、自動車の製造から多ブランド車の代理販売、さらには紡織、ハイテク、不動産開発にまで経営の多角化を図り、同集団に新時代を切り開いた厳凱泰氏には、裕隆の後継者というよりはむしろ創業者の名がふさわしい。

 厳凱泰氏は2007年7月13日、裕隆集団董事長に就任した。


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