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第46回 鼎泰豊董事長 楊紀華氏


コラム 経営 台湾事情 作成日:2009年8月21日

台湾流経営策略 台湾の名経営者

第46回 鼎泰豊董事長 楊紀華氏

記事番号:T00017393

 
 小龍包を看板メニューとする鼎泰豊(ディンタイフォン)は、米ニューヨークタイムズ紙の「世界の10大レストラン」に選ばれた唯一の中華系レストランで、高島屋との提携により日本進出にも成功している。わずか21グラムの小龍包は、4店を構える台湾から日本、米国など海外8カ国(42店舗)に飛び出し、全世界で年間1億個以上を販売する「小龍包の奇跡」を実現した。

 2代目経営者、楊紀華氏は、鼎泰豊の経営戦略について質問されるといつも、「わたしの理念は簡単。もうけより品質が重要だということです」と答える。鼎泰豊は仕入れの際、品質のみを問題とし、コストをほとんど気にかけないという。

マニュアル化の始まり

 1996年、東京・高島屋が初めて鼎泰豊の海外出店ライセンスを取得し、料理人を台湾に派遣して小龍包の製法を学ばせた。日本人の料理人は、台湾にやって来るなり、鼎泰豊本店の料理人に「皮の厚さはどのくらいか」「あんの重さはどうか」「水と小麦粉の比率は?」など細かく質問した。しかし、それまでの鼎泰豊のやり方はすべて「勘に頼る」というものだった。鼎泰豊本店の料理人たちは口々に、「日本人は本当に面倒だ」と文句を言ったという。

 しかし楊紀華氏はこの時初めて、「製法のマニュアル化を始める時が来た」と感じた。鼎泰豊は計測を何度も繰り返して基準値を抽出し、「皮5グラム、あん16グラム、ひだ18本」という規格を制定した。これにより製法がマニュアル化され、品質の確保に成功したのだ。

サービスの効率化

 楊紀華氏は、出店ライセンスの供与を通じて日本のサービス精神を吸収し、一連のサービスシステムを確立した。鼎泰豊では2001年からIT化を進め、テーブル案内や注文にコンピューターシステムを採用している。「牛肉麺(めん)にネギを入れない」「チャーハンにコショウを入れない」など特殊な注文に対し、システムに12の特殊キーをあらかじめ設定しており、これらキーを入力して厨房に情報を伝えることで、注文を間違えることもなくなり、労力も減らせた。また、特に注目されるのは小龍包を蒸す際にもコンピューターを導入したことだ。調理時間を正確に管理することは、品質のさらなる向上に大きな役割を果たしている。

「顧客の意を我が意とする」

 鼎泰豊は従業員への投資を惜しまない。積極的に教育を施し、航空会社の客室乗務員並みの高給でホールスタッフを雇用するため、従業員も自然と仕事にありがたみを感じ、会社側も接客姿勢を厳しく要求することができる。

 また他のレストランと比べ、鼎泰豊のホールスタッフは飛び抜けて人数が多いため、店が忙しいからといってサービスがおろそかになるということはない。どれほど店が混んでいようと、スタッフは来店者の要望を礼儀正しく、完全に満たす。鼎泰豊の店内で、客は湯のみのお茶が空になる心配をする必要はない。常に客が声をかける前にお茶を注ぎ足しにやって来る。「顧客の意を我が意とする」の精神に基づく徹底したサービスをモットーとしており、通常のサービスから外れた要求であろうと、ホールスタッッフの仕事ではないような要求であろうと、顧客を満足させるために可能な限りを尽くす。

 例えばある時、ひとりの客が勘定の際、レジの横に貼ってある1枚の「接客サービスの心得」に目を留め、「これのコピーをくれないか」と頼んだ。するとスタッフはすぐにこの紙を外し、「店内にはコピー機がございませんが、古い領収書の裏にメモしますから」と言ってこの客に手渡した。

 こういったささいなことでもサービス精神が発揮され、客の感動を呼ぶ。ちなみにその「心得」には、「お客さまが呼べばすぐに行くこと、お客さまが手を上げたり、動こうとすればすぐにその要求を察知できるよう常に注意を怠らないこと。そうすれば完璧なサービス提供の域に達することができる」と書かれていた。

身を以て感じた「鼎泰豊精神」

 筆者もかつてその精神を身を以て体験したことがある。ある日、二人の子供と一緒に鼎泰豊を訪れた。人が多かったので二人用のテーブルに通され、座席を一脚付け足してもらった。「ちょっと狭いけど、まあ許容範囲だな」といった印象だった。しかしわれわれの注文した料理が運ばれて来るまでに隣の5人用テーブルが空くやいなや、すぐにスタッフがやって来てそのテーブルに移るよう勧めてくれた。人が混んでいる上、こちらは3人しかいないにもかかわらず、進んでこういった配慮を見せてくれたことに心を動かされた。

 「顧客の要求を待つのではなく、顧客が考えつく前に予測してあらゆる手配を行うこと。そうすれば今後そうしたサービスが重視されるようになる」という鼎泰豊のサービス理念を、自ら証明することになった。

 鼎泰豊の今日の成功は、大部分を楊紀華氏の厳しい統率力に負っている。品質には絶対に妥協せず、欠点が見つかれば直ちに改善を要求する。材料の調達、調理方法、味付け、接客サービスなど、すべてに厳格に目を配り、十分な水準に達していなければ、絶対客には出さない。こうした理念を守ることにより鼎泰豊は、まったくコストをかけることなく、口コミのみによってブランドを確立することに成功したのだ。


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