コラム

記事番号:T00007009
2008年4月25日0:00
 
 「ジャイアント(Giant)」といえば、世界で知らぬ者はない自転車ブランドだ。欧州で最大、中国の高級車種で首位のほか、日本、オーストラリア、カナダ、南アフリカ、チリ、アルゼンチン、東南アジアでは輸入ブランドのトップだ。「ジャイアント」を製造する巨大機械工業(ジャイアントMFG)の販売網は世界59カ国に広がり、販売拠点は1万カ所を超える。この「巨大」なブランドを作り上げたのが同社の董事長、劉金標氏だ。

「永遠の顧客はいない」

 同社は1972年、OEM(相手先ブランドによる生産)企業として創業した。工場の生産能力は10万台を誇ったが、初年度の受注台数はわずか1,821台に過ぎず、当時は何度も倒産の危機に陥った。「Made in Taiwan」といえば、厳しい検査もなく輸出され、質より量で勝負する。そんな悪評が広がっていたため、顧客開拓は困難を極めた。

 劉董事長が語るそのころのエピソードからは、信じられないほど低かった同社のポジションがうかがえる──。日本で開催された展示会で、ある有名メーカーの担当者と握手をしようと手を差し出したところ、相手は突然表情を硬くし、目も合わせずにこう言ったのだ。「台湾の低級メーカーと商談などするつもりはない」。劉董事長は、恥ずかしさのあまり真っ赤になってしまった。

 その後、米最大の自転車メーカー、シュウィン(SCHWINN)の受注を得たことから、生産量も徐々に増えていった。しかし会社が成長するにつれ、劉董事長氏は危機感を強めていた。「世の中には永遠の契約などない。顧客との関係が深まるにつれ、顧客との問題もますます大きくなる」。案の定というべきか、シュウィンは突然、台湾のコストは高すぎるとして、中国深圳に現地企業との合弁工場を設立すると宣言。同社は大きな打撃に見舞われた。

欧州専用生産ラインで成功

 「保障」と「自主性」に欠けるOEMというものに、劉董事長は次第に限界を感じるようになった。そこで、国際市場に参入して新しい商機を開拓するため、1981年に自社ブランド、「ジャイアント」の設立を決定し、オランダに欧州本部を置いた。自社ブランド創設には、従業員に会社への帰属感、一体感を持たせるという目的もあった。

 当時は欧州でも台湾製品は品質が悪いというイメージがあり、その上、創業200年以上の歴史を持つ有名メーカーを相手にしなければならなかった。そこで、欧州の需要に応えるため、「インダストリー・アート(IA)」と名付けた特別な生産ラインを作った。この生産ラインでは、熟練のベテランが自転車を「工芸品」として製造し、拡大鏡で見るかのようにして瑕疵をくまなく探した。こうした努力の結果、「ジャイアント」ブランドは欧州市場で徐々に品質が認められていき、このIA生産ラインは他のラインにも展開していくことになった。

 劉董事長は、「国際競争とは、オリンピック選手が厳しいハードルを乗り越えなければならないようなものだ」と語る。世界レベルの製品でなければ、国際競争の中で日の目を見ることはないのだ。

 劉董事長は研究開発(R&D)と品質を非常に重視する。初めて自社で開発した、軽くてシャープな外観の一体成型タイプの自転車を出荷した際、5台ほど瑕疵があるというクレームが上がってきた。劉董事長は直ちに市場に出回っていた1,600台以上をすべて回収し、従業員の前に並べ、数百万台湾元以上もするこれらの商品をローラーで押しつぶしてしまった。従業員に品質の重要さを教えたのだ。

台湾を「世界の自転車センター」に

 自社ブランドの設立と会社の変革において、劉董事長は必ず最初に対策と手順を考えた。まず改革の内容とその重要性を従業員に説明し、従業員と意見を交わして共通の認識を確立、その後で着手する。 会社に良くない習慣があれば、実務を通して徐々に修正していく。従業員は十分に信頼し、権限を与える。劉董事長にとっての「信頼」は、管理をしないことではなく、「関心」と常に一体にある。このため、リーダーは進捗状況をよく理解しなければならない。「理解」があってこそ、「信頼」することができるのだ。

 人に任せる際には、「見る」ことよりも「聞く」ことが大切だという。話すべきでないときは話さずに、従業員の声に耳を傾けるべきだ。だが話すべきときには、もちろんしっかり話さなければならない。リーダーというものは、自己をコントロールできなければならない。我が身のことばかりで、人に任せられないということではいけない、というのが劉董事長の哲学だ。

 ジャイアントの目標は、「自転車のトータルソリューションの提供(Global Total Cycling Solution Provider)」であり、「顧客満足を追及し、改善を継続し、創造に挑戦し、最高を追い求める」という経営理念の下、台湾を「世界の自転車センター」とすることだ。劉董事長は成功した今もなお、研究開発、管理、マーケティング、財務などの本部を台中県大甲に置いている。台湾に根を張り、故郷に貢献する企業家の一人なのだ。


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