ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第24回 宝成集団総裁 蔡其瑞氏


コラム 経営 台湾事情 作成日:2008年4月11日

台湾流経営策略 台湾の名経営者

第24回 宝成集団総裁 蔡其瑞氏

記事番号:T00006704

 
 宝成工業は1969年、従業員わずか数人で安物の長靴とサンダルの製造からスタートした。78年にはスポーツシューズの製造を開始し、OEM(相手先ブランドによる生産)からODM(相手先ブランドで設計から製造までを担当)へと転換を図り、生産ライン376本、年産20億足の世界最大のスポーツシューズ受託メーカーに成長した。蔡其瑞総裁の下、99年には電子業界にも進出し、07年売上高は1,877億台湾元(約6,296億円)に上り、従業員数は28万人近くに達している。

商売には誠実さが必要

 宝成を一躍有名にしたのは蔡其瑞氏自らがデザインした子供用の靴だ。表面に動物のイラストを描いたこの愛らしい製品は、当時としては天文学的数字ともいえる50万足の注文を獲得した。

 76年、米国は台湾靴メーカーによるダンピング防止のため、厳格な輸入割当制度を実施した。宝成はそれまでの成功により、大きな割当を獲得したため、いい加減な商売をしようと思えばできた。しかし蔡氏はまじめな仕事を続けたため、1足1米ドルの輸出価格割当に対し利益は5セントにも満たなくなった。敬虔(けいけん)な仏教徒でもある蔡氏は、多くの失業者を生み出す倒産は何としても避けたいと考え、また「世界一の靴」を作りたいという思いもあり、もうけが出ないまま靴を作り続けた。蔡氏は、「あの時は他社が割当に頼っていい加減な商売をするのを見て嫌な思いをした。商売には誠実さが必要で、我慢すれば窮地を乗り越えられるものだ」と振り返る。

 結果的に輸入割当制度は4年で中止となり、制度に寄りかかっていい加減な仕事をしていたライバル社の多くは淘汰され、宝成はこれを機会に大きく躍進した。台湾の産業の中では早くから斜陽産業と目されていた製靴業において、宝成は世界最大の靴メーカーに成長した。受託製造している国際的ブランドは、ナイキ、アディダス、アシックス、リーボック、プーマ、ニューバランス、メレル、ティンバーランド、コンバース、サロモンなど多数におよび、全世界で5人に1人が宝成製の靴を履いていると言われる。

動向を読む鋭い目

 宝成がここまで成功した理由は、蔡氏が時代の動向を読む鋭い目を持っていたということが大きい。蔡氏は、当時の消費者の好みがスポーツシューズ、しかも米国市場の傾向を主流とするブランド志向に傾いていることを見抜いていた。
 また、製品およびサービスの付加価値を高める基礎を築き上げるため、蔡氏は90年に1億2,000万元を研究・改良に投じ、技術のコンピュータ化にも着手した。それまで職人が積み上げてきた経験をコンピュータの中に移し込もうとしたのだ。コンピュータ化により、靴の設計がさらに精密化され、生産プロセスがより迅速になったばかりでなく、ノウハウの継承も可能になった。

宝成は「製造サービス業」

 蔡氏は顧客の声も非常に重視する。それまで受託製造業界では、「一つのブランドの製品を請け負った場合、その他のブランドの製品は請け負わない」という不文律が存在したが、多ブランドから受託する宝成では、顧客の懸念を払拭するため生産ラインを顧客ごとに完全に分離し、高い技術力により開発した付加価値のある製品の製造に全力を尽くした。

 蔡氏は、宝成は一般の製造業ではなく、いわば「製造サービス業」に属すると考えている。顧客に提供するのは単なる製品ではなく、市場分析、新製品の研究開発(R&D)、顧客のコストを低減するための生産技術なども含んでいるというのだ。いったん顧客がこのような提携モデルになじんでしまえば、もう他のメーカーと提携しようとは考えなくなるというわけだ。

 宝成は現在中国広東省に4カ所、合計すれば新竹科学工業園区の4倍もの広さとなる拠点を持っているが、まだまだ生産能力の拡充が可能だという。ただし、これほど規模が大きくなっても、蔡氏は依然として自社ブランドは持たず、「2番手哲学」を堅持する。大口顧客との関係を重視し、利害が衝突することを避け、安定した受注を確保するためだ。

「責任分担」と「利潤中心」

 28万人という膨大な人数の従業員管理について蔡氏は、「責任分担」と「利潤中心」をバックボーンに各事業群を3つの独立した単位に分け、単位ごとに総経理を配した。各単位が1社ずつ大手ブランド顧客に対する責任を負うことで互いに競争を促し、宝成は財務、広報、後方支援にのみ責任を負うことにした。蔡氏自身もこの「責任分担」をうまく実践しており、年に一度の経営検討会議では従業員たちを笑顔で迎えて優しい経営者の役割を演じ、従業員を叱責する恐い経営者の役割はおいの蔡乃峰執行総経理に任せている。

 「柔和な外見、大胆な内面」という個性を合わせ持つ蔡氏は、「臨機応変」、「失うものがあればこそ利も得られる」との理念の下、少なからぬ自社株をゴールドマンサックスに売却し、同社を大株主に迎えた。これは宝成に対する企業イメージを高めるためだけなく、グローバル企業へと変身する決意をも表していた。そして競争の中で成長を続け、宝成が1年間に作る靴の生産量は、つなげて並べると地球を1周するまでに成長した。


ワイズコンサルティング 荘建中

台湾流経営策略台湾の名経営者

情報セキュリティ資格を取得しています

台湾のコンサルティングファーム初のISO27001(情報セキュリティ管理の国際資格)を取得しております。情報を扱うサービスだからこそ、お客様の大切な情報を高い情報管理手法に則りお預かりいたします。