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第23回 郷林集団董事長 頼正鎰氏


コラム 経営 台湾事情 作成日:2008年3月21日

台湾流経営策略 台湾の名経営者

第23回 郷林集団董事長 頼正鎰氏

記事番号:T00006251

 
 1976年創業で、頼正鎰氏率いる郷林集団は、早くは「草嶺ハイキング」イベントの企画で知られ、80年に建築業に進出した。自宅の買い替え購入者をターゲットとし、40坪以下の住宅は手掛けなかった同社は、台中住宅市場におけるリーディングカンパニーに成長した。その後は、建設、旅行、マスコミ、人材紹介、金融、農業などの事業へと進出した。中でも郷林集団の名前を世に知らしめたのは、日月潭の国際観光ホテル「涵碧楼」だ。

 涵碧楼は、蒋介石の別荘があった由緒ある土地を頼氏が1997年に購入し、5年の歳月と18億6,000万台湾元(約58億6,000万円)をかけて総床面積8,000坪の「涵碧楼」に改築し、02年3月にオープンさせたものだ。

ビジネスは観察眼と大胆さ

 この投資は当初、業界から疑問の目で見られた。しかし頼氏は、その人並みはずれた洞察力で、日月潭のこの地が成功をもたらす好条件を備えていると見抜いていた。山の中だが冬は温暖、夏は涼しく、台風の強風も届かず、交通の便もよい同地は、外国人にとって主要な観光名所であり続けてきた。

 当時の一大決心は、頼氏が持つ「逃げ出した虎の体をつかむのは間に合わなくとも、尻尾さえつかめれば、虎の背に乗るチャンスは残る」という、「虎の哲学」を体現している。頼氏は、「ビジネスには観察眼と大胆さが必要。決して目の前のチャンスを見逃してはならない」と強調する。

顧客に「まったく新しい体験」を

 適切な人材を集め、正しい意見を取り入れる。このことも涵碧楼成功の要因だ。「シンプルの極み」、「禅スタイル」を設計の中心コンセプトに据えた涵碧楼は、「on going」すなわち「前進する」建築と呼ばれ、10年、20年が経過しても古びた印象を与えず、価値の高い建築物であり続けるという。

 頼氏は、同ホテルの経営管理に世界各地で30年、40年の経験を持つ高級リゾートホテル、アマンリゾート傘下のマネージメント・チームを招き、客室数、料金設定など、ホテル経営に関する企画や提言を求めた。その結果、広大なホテルに客室はわずか96部屋の設計となった。頼氏は「ホテルというのは部屋を貸し出し、食事や施設を提供するだけではない。より重要なのはお客様に『まったく新しい生活体験』をしてもらうことだ」と指摘する。

空室率は重要ではない

 涵碧楼のオープン当時1泊1万2,300元だった宿泊費は、1万5,500元、1万7,100元と値上がりを続けた。当初頼氏は、「値上げして客が来なくならないか」と心配していたが、経営チームの提案に、「ホテル経営は空室率ではなく平均単価が重要」との認識に達し、これを受け入れた。頼氏は「本当にホテルに泊まりたい人が、部屋がないために泊まれない」といった状況を避けるため、宿泊費を高くして空室率を引き上げた。

 企業家が余裕を持って旅行計画を立てるということは少ない。空室率を気にしていては、最高の消費力を持つ顧客が、「時間ができてホテルに泊まりたいと思った時に空き部屋がない」ということも起こりえる。空室率の引き下げに貢献するのは計画的な旅行者であって、高い消費力を持つ旅行者ではない。頼氏は涵碧楼の宿泊客を客層ごとに分け、消費力の高い顧客の比率が高ければ高いほど良いと考えた。多くの企業家や芸能人が泊まりに来れば、ホテルの格も上がるというわけだ。

 ある時、ソニーの社長が予約できなかったことがある。こうしたVIP顧客は影響力も大きい。彼が泊まることによって下流メーカーや提携企業の幹部がホテルを利用する可能性も広がる。このため頼氏は、涵碧楼に泊まりたいという顧客の質を落とさぬよう、予約客や宿泊客の客層を明確に分けて市場区分をはっきりさせ、リストを作って厳密にコントロールするよう要求する。

 頼氏は「もうけようとして学生の卒業旅行や一般旅行者をたくさん受け入れるようなホテルはダメだ」と語る。また、大勢でやって来ると騒がしいので、なるべく12人以上の団体客は避ける。頼氏はよく、「涵碧楼は3Pには向きません。夫婦か恋人で泊まるのが一番。静かでのんびりとした休日が楽しめますよ」と冗談を語っている。

橋を落として退路を断つ

 国際的なマーケティングを仕掛ける場会、広告頼みではその効果は限られると考える頼氏は、新しい商品や話題を作って海外のメディアやハイクラス御用達の旅行業者が向こうから来るように仕向けている。また、世界各地で行われる旅行展に年に12回以上は参加し、休むことなく売り込みを行う。

 さらに頼氏は「登山の哲学」も持つ。その哲学とは、「登頂してもすぐに下山せず、次の目標を決め、さらに先へ進むべし」というものだ。人間関係においては「過河拆橋(自分が川を渡った後に橋を落とす)」ではいけないが、事を成す場合、川を渡った後は橋を落として退路を断たなければならないと語る。そうすれば前進あるのみで、失敗する確率も大幅に減らせるというのだ。

 頼氏は、「一つの失敗の裏には、何百、何千という誤りがあり、一つの成功の裏には、何百、何千もの積み重ねがある」と語る。企業経営に成功するにはその過程の一つ一つにおいて正しい行動をとらなければならない。涵碧楼の成功に満足せず、成功体験をベースに「10年以内に中国と台湾で30軒の涵碧楼を建てたい」と語る。


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