記事番号：T00005775
1929年創立の明華園は、台湾伝統芸能・歌仔戯（台湾オペラ）劇団である。同劇団は時代の変化に伴って深刻な観衆の減少に直面し、常に経営に問題を抱えていた。79年、同劇団を引き継いだ陳勝福氏は、明華園に観衆を取り戻し、消えかかっていた台湾伝統劇「歌仔戯」の火を盛り返すべく、従来の古い思考法を捨てて映画の演出方法や舞台劇の要素を大幅に取り入れた。そして、野外劇団としては初となる「国家戯劇院」での上演を果たし、日本、フランス、米国、シンガポール、南アフリカ、中国と、世界の舞台へも進出した。以下にその成功の鍵を分析する。
伝統的手法からの脱却
歌仔戯団は当時100あまり存在した。自身は演技も歌もできない陳氏は、それらの劇団との競争をやめ、歌仔戯としての思考から脱却して、観客の視点から全く新しい市場を作り出すことを目指した。陳氏は、「忠孝」などステレオタイプなテーマ、なかなか前に進まないストーリー展開、脚本がないなどの台湾伝統劇スタイルから脱却し、現代劇団としての演出制度を確立した。これによって明華園は、台湾歌仔戯としては初めて演出家を持つ劇団となり、その可能性を大きく開いたと言える。例えば、かつて演じた「韓湘子」の脚本では、「前世から現世まで続く愛情」をテーマとし、「新しいもの」や「変化」を求める若い人々の心をつかむことに成功した。
あらゆる手段で観客を引きつける
明華園は、多くの観客にストーリーを理解してもらうため、舞台の両側に現地の言葉で表されたコンピュータ字幕を設置した。米国、欧州など海外公演の際には中英対照の字幕を配し、チケットを販売する際、観客の要求に応じて座席を中国語字幕席と英語字幕席とに振り分けた。プログラム冊子には劇中の人間関係図を記し、観客が登場人物を容易に理解できるようにした。
音響と照明を効果的に使ったテレビや映画に対抗するため、陳氏は明華園の演出家を映画会社に派遣して訓練を受けさせ、映画の「絵コンテ」のコンセプトを学ばせた。その意図は、いかに変化に富んだ舞台を生み出すかにあり、照明の変化、立体的な背景、ドライアイスの煙など使ってテンポの速い現代劇の舞台効果を歌仔戯に取り入れた。
例えば82年に発表した「父子情深」では、幕が開くと、すぐ宋仁宗（中国宋代の皇帝）が金ピカの金鑾殿に登場する。そこへ、慌てた様子の兵士が中へ入ってきて「匈奴の大軍が長安城へ攻めて来ました！」と報告する。若く血気盛んな宋仁宗は大声で「迎え撃て！」と命じる。すると舞台は幕も下ろす間もなく、長安城外の両軍対峙の場面へと素早く転換する。この間わずか８秒。このスピード感あふれる場面転換に、観客の誰もが目を奪われるのだ。伝統的な歌仔戯であれば、まず一度幕を下ろし、10分以上時間をかけて背景と大道具を取り替えるところだ。
また、古典劇「白蛇伝」、「水漫金山寺」の場面では、「白蛇娘娘（白蛇の化身）」がクレーンに吊られ、18階の高さの水の柱の上を歩く。大量の水を使い、200人以上のエビやカニの兵士が観客席の側から湧き出てくる演出に10万人の観客が釘付けとなり、水しぶきが飛ぶ豪快な舞台を楽しむ。
演劇を見ない層を積極開拓
若い観客を増やし、新たな客層を広げるため、陳氏は傘下の８劇団および提携する４劇団を、大都市、小さな町、離島、病院、刑務所、工場、学校など、会場を問わず派遣し、年間で合計300公演を行う。さらに企業のマーケティングとも協力する。企業と提携する際、明華園は「文化活動に援助がほしいのではありません、我々があなた方のために何ができるかを聞きたいのです」と説明する。明華園は企業のイメージキャラクターにもなるし、ＰＲも行う。観客に商品を推薦し企業と互助関係を築き上げるのだ。
陳氏の座右の銘は、「この世にやってできないことはない」だ。「もっとひどい環境の中で事業に成功した人もいる」とも語る。
明華園は台湾で初めて現代化、企業家、制度化によって経営を行った伝統劇団であり、「直感、プロ意識、才能」という企業家精神三本柱によって伝統芸術に新たな命を吹き込んだのだ。
ワイズコンサルティング 荘建中
