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第58回 台塑集団創業者 王永慶氏(2)


コラム 経営 作成日:2010年8月6日

台湾流経営策略 台湾の名経営者

第58回 台塑集団創業者 王永慶氏(2)

記事番号:T00024471

 
 2008年10月15日に米国で死去した、台湾で「経営の神」と讃えられる台塑集団(台湾プラスチックグループ)創業者、王永慶氏については、今に至るまで数々の逸話が人々の間で語り継がれている。今回はそのうちコストコントロールに関するエピソードを紹介したい。

和尚が3人集まると水が飲めない

 台湾でよく使われることわざの一つに「三個和尚沒水喝(和尚が3人集まると水が飲めない)」というものがある。和尚が1人しかいないなら、自分で山を降りて水をくみに行かなければ水が飲めないので、行かざるを得ない。和尚が2人いる場合は協力して天秤棒を担いで水を運ぶ。しかし、和尚が3人になって1人が水を汲みに行かなくてもいい状態となると、利己的な感情があらわになり、互いに押し付け合って誰も水をくみに行こうとしなくなる。その結果水が飲めなくなるという訳だ。

 王永慶氏はこの「三個和尚沒水喝」ということわざの中から「切実さ」の経営哲学を導き出した。同氏は人間の性質というのは本来利己的なもので、「これは自分の事業だ」と切実に感じて初めて、苦しくとも経営を続けられると考える。また企業の管理制度や環境が、従業員に「この仕事は自分にとって切実な問題だ」と感じさせることができれば、100%以上の能力を引き出すことができるとの認識に至った。

「切実さ」がコスト削減につながる

 王永慶氏はかつて「芝生を敷く」ことを例に挙げ、「切実さ」とはどういうものかを説いたことがある。

 何年も前のある日曜日、明志科技大学(王永慶氏が創立した学校。元・明志工専)を訪れた王永慶氏は、そこで3人の労働者が芝生を敷いているところを見かけた。しかしその仕事ぶりはまじめなものとは言えなかった。そこで氏は労働者に話し掛けた。

王永慶氏:学校から1日いくらもらっていますか?

労働者:1人1日60元です

王永慶氏:それで生活できますか?

労働者:もちろん足りません。農作業が暇になった時期にちょっと働いて家計の足しにしているだけです

王永慶氏:もし倍の120元を支払えばもっと多くの仕事をこなせますか?

労働者:本当に120元もらえるなら、3倍の仕事をこなしてみせます

 その後、学校側は本当に1人1日120元の報酬を支払い、その結果労働者は3.5倍の仕事をこなすようになったという。もともと60元の日給で1人1日1坪分の芝生を敷いていたすれば、これが3.5坪に増えたことになる。これは本来なら210元のコストに相当する。学校側は1.5坪分の労働力を余分に得、従来に比べ90元のコストダウンにつながったことになる。これが従業員に「切実さ」を抱かせるということで、自分の利益につながるなら人間は自然と奮起するものだということが分かる。

 王永慶氏は「切実さ」の哲学をグループ内のエレベーター保守にも導入した。台湾プラ関連企業および同グループが運営する長庚医院に存在する69基のエレベーターの点検保守はそれまでエレベーターの代理販売店に委託し、年間20万米ドルの費用がかかっていた。しかし代理販売店は専門知識に乏しく、保守作業の効果は十分なものとはいえなかった。それで王永慶氏は、これをグループ内で行うよう改め、長庚医院工務部門に7人から成る「コストセンター」を設置し責任を負わせた。同氏はこの7人チームに対し年間20万米ドルを支給、そこから長庚医院工務部門が3割に当たる6万米ドルを引き、残りの14万米ドルが7人の給与に充てられた。1人当たりの年間報酬は2万米ドルとなり、それまでの雇用形態での年収に比べ倍増することになった。こうしてチームに「切実さ」が生まれ、自然と良い結果を出そうと努力するようになり、会社としても年に6万米ドルのコストダウンにつながった。

「あなた方」から「われわれ」へ

 また、考えさせられる小話がある。ある新郎新婦の結婚初夜、新婦は一匹のネズミが米を盗んで食べているところを発見し、新郎に「ほら!ネズミがお宅の米を食べてるわよ」と告げた。夜が明けて新婦は妻となった。すると彼女の口調は一変し「あのにくたらしいネズミ、一晩中うちの米を盗み食いしてたのね!」と怒りをあらわにした。

 企業経営の秘訣もここにある。従業員の企業に対する認識を「あなた方」からうまく「われわれ」に変えればよいということだ。王永慶氏の、従業員に「切実さ」を持たせる管理制度は、いかにして「あなた方」を「われわれ」に変えるかということに尽きる。

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参考:第15回 台塑集団創業者 王永慶氏(1)

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