コラム 作成日:2011年8月5日
台湾流経営策略記事番号:T00031694
筆者は、自身が講師を務めるワイズコンサルティンググループの研修を受講した方に、その成果について聞くためお会いすることがあります。
筆者:仕事の方はどうですか?
受講者:最近は総経理とのコミュニケーションが良好になりました。
筆者:なぜですか?
受講者:【ほうれんそう】研修を受けた際、先生(筆者)は「幹部が立ったとき、座っていてはいけない…」とおっしゃいましたね。会社に帰って総経理の話を聞くとき、すぐに立ち上がってみました。こんな小さな行動なのに、総経理との関係はだんだん良くなって…
この受講生は、日系企業に20数年勤め、経理の職位にあり、歴代4人の日本人総経理の下で働いてきましたが、総経理に話しかけられたときも、いつも座ったままで返事をしていました。このためコミュニケーションがうまくいかなかったのです。研修が終わった後、学んだことを実践しようと考え、態度や言葉遣いにより注意を払ってみると、総経理との関係も次第に改善されていったのです。
育成の3大テーマ「AKS」
教育・育成とは「AKS」── Attitude(態度)、Knowledge(知識)、Skill(技術)の3つの枠組みを超えるものではありません。上述の例は、このうち態度に関する教育ということになります。
人材は企業の核心的要素です。過去数年、多くの台湾企業グループが人材育成のため、相次いで内部教育システムを構築しました。
ノートパソコン受託生産大手、広達電脳(クアンタ・コンピューター)は「広達学院」を設置し、新入社員育成から高級幹部のスキルアップまで、さまざまな「ラーニング・マップ」と課程を用意しました。その課程は大きく分けて5つ。(1)管理スキルアップ(2)技術訓練(3)個人の役割(4)専門技能(5)新入社員研修 ──で、さらにこれを350以上のコースに細かく分け、▽eラーニング▽教室での講義▽在職訓練(OJT)▽講演▽離職訓練(OffJT)──など従業員のスキルアップを支援しています。
クアンタのほか、台湾積体電路製造(TSMC)、華碩電脳(ASUS)、光宝科技(ライトン・テクノロジー)とった企業も、類似の教育システムを設置し、全方位的で系統立った学習環境を提供し、さらに業績考査や昇級と連結させ、従業員の学習意欲の引き上げに努めています。こうした教育によって優秀な人材が育つようになれば、企業にとって「枯れることのない戦力の源」となるのです。
サービス業でも有効活用
製造業に負けず劣らず、サービス業でもこうした試みは盛んに行われています。多くのサービス企業でキャリアアップと昇級に結び付けた研修を実施しています。
例えば、筆者が以前、拙欄で取り上げた台湾最大の飲食グループ、王品集団には、接客技術、専門知識、管理・統率法など210単位の研修課程が設けられています。グループ内の従業員はキャリアップ、昇級の各段階で所要の単位を習得しなければならないと規定されており、努力しさえすれば学歴や資格などなくても、1年でウエイターから店長になることも夢ではないのです。
また王品集団が独自に作成した「業務マニュアル」は38冊にも上ります。毎年、改訂されており、すべての従業員がこれを学習してテストに合格しなければ、接客させてもらえません。「日々訓練を繰り返すこと」それがサービス品質を維持するための唯一の方法です。社内での訓練のほか、すべての従業員に対し、社外の優れた研修を受講するために2万台湾元の費用が提供されています。
スパルタ式でプレッシャーに勝つ
王品集団では、知識、技能に関する研修以外に、服務態度に関する研修も日本のスパルタ式訓練を導入して取り入れています。対象は職歴2年未満の全従業員、および職歴1年未満の基層幹部。受講者は台北市中山北路脇に立ち、道路の向こう側にいるパートナーに大声で呼びかけます。
これらチャレンジ性の高い訓練により受講生の成長を刺激するのです。王品集団は「飲食業は非常にプレッシャーの強い仕事であり、そのプレッシャーに打ち勝つ強さが必要」と考えます。訓練を通じて従業員にプレッシャーに負けない力、挫折を乗り越える能力を付けさせるとともに、自分の限界を超え、壁を突き破ろうとする姿勢を養うほか、チームスピリットの重要性を感じさせることもできるのです。
訓練なしに力は発揮できない
日本の「経営の神様」、松下幸之助はかつてこう言いました。
「会社が戦略を実行に移す際、従業員には一定の技能が求められる。それは厳格で系統だった訓練によって養われる。例えば運動選手の驚くべき肉体と技術は、天から降ってきたものではなく、長期間にわたる心身の訓練によって築き上げられたものだ。訓練しなければ、どれほど優れた才能の持ち主でも、その力を発揮できないものだ」と。
というわけで、企業全体の戦力を引き上げるため、よく計画され、系統立った研修と人事制度を適度に組み合わせて補完効果を挙げること、それこそが企業が人材育成を行う上で検討すべき重要課題と言えるでしょう。
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荘建中
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