コラム 経営 マーケティング 台湾事情 作成日:2011年12月2日
台湾流経営策略記事番号:T00034108
前回は王雪紅氏がVIAを創業した経緯について触れました。後編の今回はHTCのサクセスストーリーをご紹介します。2011年4月、HTCの株価総額は338億8,000万米ドルに達し、初めてノキア(328億4,000万米ドル)を追い抜きました。市場調査会社カナリスのリポートによると、今年第3四半期、スマートフォンの世界市場全体ではサムスンが首位でしたが、米国市場ではHTCが出荷台数570万台を記録し、アップルとサムスンを抑えて最大ブランドとなったのです。
欧州進出で実績積む
HTCは現任の王雪紅董事長、周永明執行長らによって97年に創立され、同年11月、マイクロソフトより新オペレーティングシステム「Microsoft Windows CE」のライセンスを授与されて、世界初のWindows CE搭載のパームトップパソコンを発売しました。同パームトップPCは翌年、世界で初めて米NSTLから認証を受けたMicrosoft Windows PDAとなり、また同PCとしては世界で初めて量産販売された機種となりました。マイクロソフトの提携パートナーとなったことで、HTCの名声は高まりました。
王雪紅氏は創業当初からHTCを「設計会社」とする意図で、製造に携わっても携帯電話ODM(相手側ブランドによる設計・製造)メーカーとなる考えはありませんでした。ブランドメーカーの製品を低価格で大量に受託生産する台湾の一般的な携帯製造メーカーのビジネスモデルは選ばず、市場が成熟していた欧州通信市場に積極的に進出しました。
当時、欧州通信市場は通話サービスからデジタル通信サービスへの移行が始まった重要な時期でした。HTCは音楽・画像情報の優秀な処理能力を持つスマート型ハンドヘルド機器を現地の通信会社に提供し、これが3G(第3世代)の付加価値サービス展開を目指す業者の需要と合致したのです。欧州で一定の販売量を達成したことで、HTCの業界内での知名度はさらに高まっていきました。
HTCは自身を業界内の「促進剤」と位置付けています。スマート型ハンドヘルド機器産業界のさまざまなメーカーと接触して、各社の能力とリソースを統合する媒介役となり、通信サービス業者のハンドヘルド機器のあらゆるソフトに対する需要を満足させました。通信業者は業界の大手・中小メーカーと自ら提携する必要はなく、HTCとの取引でこれを実現できるわけで、こうしたことがHTCが素晴らしい業績を達成できた理由です。
HTC Touchで活路
06年、携帯ODM業界で受託生産価格の値下げ競争が始まったことを受けて、王雪紅氏は自社ブランド「HTC」を打ち出しました。この結果、ヒューレット・パッカード(HP)、Palmなどが相次いで同社への生産委託を取りやめ、6社あったODM顧客はわずか1社だけになってしまいました。HTCはブランド事業で結果を出すことが求められる情況となりました。
HTCが07年6月に発表した「HTC Touch」は、マイクロソフトプラットフォームのユーザーインターフェースをHTC独自のTouch FLOインターフェースに改め、ユーザーが指でディスプレイにタッチして軽く動かすだけで、コンテンツを取り出したり、通話記録などを操作できるようにしました。これによりHTCはアップルのiPhoneの強敵と目されるようになります。
MS・グーグルとの提携が効果
HTCは同年、グーグル主導で34社が設立に参加した「オープン・ハンドセット・アライアンス」に参加し、グーグルのアンドロイドOSを採用したスマートフォンを発売しました。マイクロソフト、グーグルの世界2大手との提携によって製品の研究開発(R&D)能力に厚い基礎を築いたのみならず、マイクロソフトのオペレーティングプラットフォームとグーグル・アンドロイドプラットフォームのリーダーとなったことで、HTCブランドにとって力強い宣伝効果がもたらされました。
グーグルが今年8月、125億米ドルでモトローラ・モビリティの買収を発表した際、王雪紅氏は「HTCはグーグルとの提携を続ける。中長期的に絶対に意義がある」と強調しました。
HTCは現在、アップルと激しい競争を繰り広げていますが、10月に亡くなったアップル創業者、スティーブ・ジョブズ氏が「一つの製品であらゆる消費者を満足させることができる」と考えたのに対し、王雪紅氏は「ひとりひとりの消費者をそれぞれ満足させるべき」と考えており、こうした考え方の違いがそのまま商品戦略に反映されていることは興味深いことです。王雪紅氏のリーダーシップが再びHTCを新たな高みへと押し上げることを期待しています。
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