記事番号:T00038094
今回は中国信託金融控股(中信金)の子会社で、中国信託商業銀行(中信銀)より宝くじの発行、販売などの業務を委託されている「台湾彩券」の董事長、薛香川氏をご紹介します。
薛氏は馬英九政権発足とともに行政院秘書長に就任しましたが、2009年8月の台風8号(アジア名・モーラコット)で中南部に甚大な被害が出た際、家族や友人との会食を優先して、すぐに被災地域に駆け付けなかったため、強い批判を浴びて辞任しました。その後10年3月に中信金の辜濂松董事長に声を掛けられて「台湾彩券」の董事長に就任しました。
宝くじの発行は当初、台北富邦銀行が財政部の委託を受けていましたが、07年に中信銀が7年間で計146億台湾元の納付金を政府に納めることを条件に運営権を落札し、宝くじの発行を行うようになりました。
中信銀にとって、1年当たり約21億元の政府への納付金および運営コストの重さから、損益均衡の達成には年間900億元の売上高が必要でした。同行はこのため、宝くじを発行に安価な管理システムを使うことにしました。しかしその結果、販売開始初日から台湾全土でシステムトラブルが発生してしまい、このことも一因となって初年度売上高は642億元にとどまりました。
その後も毎年2億~6億元の赤字が続きましたが、薛氏は斬新なアイデアによって10年に売り上げを808億元、11年には912億元まで伸ばして、台湾彩券を黒字へと導いたのです。
そんな薛氏が取った2つの戦略を見ていきたいと思います。
戦略1:当選確率を上げる
台湾で宝くじが最もよく売れるのは春節(旧正月)シーズンの毎年1月と2月で、第1四半期の売上高が通年の3分の1を占めます。薛氏はこの時期に「大楽透(1から49まで6つの数字を選ぶロトくじ)」、「刮刮楽(買ったその場で当せんが分かるスクラッチくじ)」の当選確立を高めることが売上増の鍵になると考えました。
それまでにも春節シーズンは当選金額を2億元から3億元に増額して消費者の射幸心をあおっていましたが、1枚50元の宝くじで当選するのはたった1組。当選確率が極めて低いため、十分な販売効果に結び付いていませんでした。
薛氏はこのため、当選金額は2億元で据え置いたままで、1等の当選金を1億元として、残りの1億元で「百万大紅包(100万元のお年玉キャンペーン)」を実施、100万元が100組に当たるようにして、1枚当たりの当選確率を大きく引き上げました。11年には「100万元100組」以外にも、1等の当選金額を2億元に増額、さらに「1,000万元10組」を加えることで当選金額と当選確率を上げ、売り上げを伸ばしました。
今年の春節には当選確率80%の「刮刮楽」を1枚2,000元で販売。1枚当たりの販売価格は高額ながら、その当選確率の高さで発売後すぐに売り切れとなりました。
戦略2:話題の芸能人をCMに起用
薛氏はかつてギャンブルで借金を背負い長年逃亡していた芸能人、猪哥亮をCMキャラクターに起用しました。その話題性によって人々の注目を集め、売り上げが大きく伸びました。
また、宝くじが最も売れる第1四半期向けに年間広告費用の3分の1をかけ、宝くじの購入を通じて慈善事業に貢献できることをアピールするものと、「100万元100組」など新しい当選方法を宣伝する2種類のCMを制作。春節の時期は目新しいニュースに乏しく、メディアがこぞって宝くじのニュースを取り上げたため、CMの宣伝効果も高まりました。
薛氏はこうした消費者の心をつかむマーケティングと広告戦略で、中信銀の宝くじ事業を赤字から救出したのです。
荘建中
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