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振宇五金(振宇ハンドウエア)は、台湾各地に58の直営店を持つ、台湾最大の五金(金物)・修繕チェーン店です。2020年の売上高は15億8,000万台湾元(約60億円)でした。
振宇五金の董事長、曽善氏は、彰化県二林鎮の農村に生まれました。故郷に残って畑仕事をしたくなかったので、懸命に勉学に励みました。若いうちは多くのことを学び、見聞を広めようと、平均2~3年で仕事を変えました。駅の検札員や車掌、会計、営業の仕事にも挑戦しました。親しみやすいキャラクターで、人間関係にも恵まれ、先輩社員の10倍の業績を達成するなど、オーナーが目を見張る活躍をしました。
曽氏は結婚し、夫となった洪坤山氏がかつて金物屋の見習いをしていたことから、夫婦で金物業を始めることにしました。嫁入り道具の装飾品を売り払い、貯蓄や頼母子講(金銭の融通を目的とする民間互助組織)からのお金を合わせ、187万元を準備し、1979年に「聯達五金」を設立しました。卸売りを中心とした聯達五金は、たった5年で500社もの顧客を獲得しました。
日本の金物屋がヒントに
曽氏は日本に旅行した際に金物屋を訪れ、家庭用の金物製品や電器類、雑貨などがいずれも整然と並んでいるのを目の当たりにしました。
帰台後、曽氏はそのような店をやらないかと熱意を持って顧客を説得しましたが、顧客からは「そんなお店はコストがかかるだけ」「商品を盗まれるだけじゃ済まないよ」と冷や水を浴びせられました。曽氏はそこで諦めず、自分でやってみようと決めました。
89年に60坪の倉庫を見繕い、振宇五金の1号店を台中にオープンしました。台湾初となるオープン・ディスプレイを採用した、セルフ式の金物店です。来店客は、店員やオーナーに頼まず、自分で商品を選んで、購入することができます。曽氏がかつて卸売りをしていたことも価格面で有利に働きました。
金物屋の商品は、種類が多く、珍しい物も多かったため、曽氏は苦労しながら各商品の性能や特徴を覚え、商品を選ぶ目を養っていきました。また曽氏は、水道や電気工事の職人や、消費者のDIY需要を知るために、いつもカウンターに立ちました。
90年代は建築業が盛んで、ある土木職人は弟子を7~8人引き連れて買いに来ました。曽氏は、仕事前に足りない道具などを購入できるよう、午前7時には店を開けました。
在庫管理システムで効率化
台中に出店後、曽氏は苗栗や南投など中部で店舗を拡大していきました。一定の規模に達した頃、曽氏の息子である洪国展氏が08年に米国で経営学修士(MBA)の学位を取得し、最も大変な倉庫管理の仕事から携わりたいと申し出ました。
洪国展氏は、まずデジタル管理に取り組みました。それまで倉庫管理は全て手作業で行っていました。商品が1万3,500種類あるため、慣れた人でも手書きでの記録作業が2時間かかり、その後パソコンへの入力に1時間かかっていました。洪国展氏は、自動補充システムをプログラミングし、商品の在庫を毎日自動で計算し、一定水準を下回ると自動発注する仕組みを構築しました。その結果、3時間かかっていた仕事が3秒で終わるようになりました。
また洪国展氏は、自社ブランド「ALD」の商品を200種類以上開発しました。新製品の開発によって、振宇五金は従来型の金物業者と差別化を図り、熾烈(しれつ)な価格競争から抜け出すことができました。
従業員を海外旅行に招待
曽氏の親子は、従業員を大切にしています。社内積立制度を設け、毎月3,000元を上限に、従業員の積み立てと同額を会社が補助しました。教育制度も整備しました。福利厚生は公務員に準じ、休日は1カ月に10日としました。
業績目標を達成すると、全店舗の従業員全員を招待し、海外旅行のインセンティブツアーを実施しました。新型コロナウイルス感染症が世界的に流行する前には、従業員はほぼ毎年、無料で海外旅行をしていました。
従業員の健康のため、振宇五金の本部は、階段の各階の踊り場に健康器具を設置しました。ヨガの教室も開きました。仕事が忙しくて運動できないことがないよう、就業時間中に運動する時間を40分間、週2回、申請できるようにしました。
洪国展氏は、バスケットボールやソフトボールの愛好家です。そこで、ソフトボールやバドミントン、登山のサークルを設立しました。企業チームを結成し、試合にも参加しました。
中部大震災でつながり
曽氏の親子は、顧客の声を重視しています。そのため、取引のある水道や電気工事の職人が好立地を紹介してくれたり、顧客がどんな商品を追加したらいいかアドバイスしてくれます。
曽氏の顧客の多くは、1999年の台湾中部大地震(921大地震)で被災しました。被災地では当時、臨時避難所を設置するため、帆布や消毒用の石灰が必要となりました。そこで曽氏は、車で南投や埔里の被災者に無料で届けました。この思いやりの行動で、地域の人々は振宇五金のことを知り、筋金入りのファンとなりました。
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