ワイズコンサルティング・グループ

記事番号：T00056339

　相次ぐ食品汚染事件で食品メーカーに対する消費者の不信感が高まる中、市場シェアを確実に拡大し、業界の地位をますます強固にする大手食品メーカーが存在します。今回は食品業界の「最後の良心」と称される義美食品（Ｉ－Ｍｅｉフーズ）の総経理、高志明氏を紹介します。

こだわりのあまり損も

　義美は創業者の高騰蛟氏が焼き菓子店として1934年、現在の台北市大同区に設立。その後、息子の高志明氏が総経理として、台湾で最も有名な食品ブランドの一つに育てました。義美の直営店は現在全土に88店。

　高騰蛟氏は、焼き菓子は一口で良しあしが分かるとして、原料にこだわり製品は全て自社生産しました。その分もうけは少なかったですが、薄利多売で営業を続けました。このように、義美は創業以来、経営哲学として食に対する「誠実さ」を貫いてきたのです。

　ただ、義美は安過ぎる原料は買わないというポリシーを堅持しているため、以前はずいぶん損もしたそうです。同業が低価格の原料を使い、化学合成添加物を加えて作った食品を量販店など大手販路で安く売り、シェアを広げて利益を拡大する一方で、原料にこだわる義美は商品の値下げが難しく、なかなか店頭に置いてもらえませんでした。高志明氏は「当時は本当にきつかった。でも安売りできないから諦めるしかなかった」と振り返ります。幸い、義美は自社の販路を確保していたため、そんな過酷な時期も何とか乗り切れました。

徹底した原料管理体制

　食品汚染事件で大手食品メーカーの悪徳行為が明るみになる中、義美だけは不正が発覚したことが一度もありません。高志明氏は「義美が原料に関わる５つの原則を守ってきたからだ」と語ります。５つの原則とは、▽原料の出どころ確認▽原料価格の審査▽原料サプライヤーの顧客リスト確認▽自社実験室での原料検査▽入荷原料の異常有無確認──です。

　原料の出どころ確認で、もし販売業者自身が出どころを説明できない場合、義美は決して買いません。

　原料価格の審査では、安過ぎる原料には疑いの目を持つ一方、良いと思った原料にはコストを惜しみません。有名なのが大豆調達に対するこだわりで、義美は全ての大豆食品に遺伝子組み換え大豆を使用しません。遺伝子組み換えの輸入大豆に比べ、遺伝子組み換えでない大豆は価格が30〜50%高いですが、それでも遺伝子組み換え大豆は使いません。

　原料サプライヤーの顧客リスト確認では、例えばサプライヤーがマクドナルドや米系会員制量販店のコストコなど多国籍企業に供給していれば、厳格な審査を通過した信頼できる業者と判断するのです。

　義美は05年、6,000万台湾元を投じ、桃園市に200坪の自社実験室を設置しました。台湾内外から修士学課程卒業の人材20人を招へいした他、１台1,000万元の専門的な検査装置まで配備するなど、同業にはまねできない検査体制を構築し、原料を日々検査しています。

　また、義美は入荷した原料に少しでも異常が見つかると、実験室にすぐ通報し、検査する体制を築いています。

ファミマとの提携、市民が応援

　誠実さを貫いていた義美は、皮肉にも食品汚染事件の「おかげ」でますます日の目を見ることとなりました。今年３月初めには、コンビニエンスストア大手、全家便利商店（台湾ファミリーマート）が義美の豆乳飲料「義美古早伝統豆奶」シリーズの販売を開始。インターネット上でも話題となり、義美の経営理念に共感するネットユーザーたちが「台湾元を使って義美の豆乳を店頭から撤去してやろう！」とユニークな購買奨励運動を展開。同豆乳シリーズの販売量はわずか２週間で100万本を突破、約2,000万台湾元売り上げ、台湾ファミリーマートの豆乳全体の売上高は８割増加しました。

台湾ファミリーマートで義美の豆乳が大々的に販売されている（９日＝ＹＳＮ）

　同月下旬には、台湾ファミリーマートが義美の専用売り場を全土2,950店舗のうち、200～300店舗に設置する計画を明らかにしました。さらに、今後は義美が台湾ファミリーマートの食品を受託生産したり、義美の限定商品を台湾ファミリーマートだけで販売したりと、両社の提携がさらに深まる可能性があります。

　強力な販路を獲得した義美。その経営理念は、今後さらに多くの人に評価されていくことでしょう。