記事番号:T00084215
騰輝電子(ベンテック・エレクトロニクス)は、プリント基板(PCB)原材料の銅張積層板(CCL)、プレプリグ、アルミ基板の生産・販売を手掛け、アジアで唯一、軍需・航空分野の認証を受けているサプライヤーです。英ロールス・ロイスや米ゼネラル・エレクトリック(GE)にエンジン用マザーボードを供給しており、自動車用発光ダイオード(LED)ヘッドライトのヒートシンク向け材料の市場シェアは世界首位です。
2018年連結売上高は51億1,400万台湾元(約180億円)、1株当たり純利益(EPS)は6.75元でした。
顧客第一の営業姿勢
董事長の労開陸氏は1955年に生まれました。家庭が貧しかったため、2人の兄は士官学校に進み、三男の労氏だけが大学に進学しました。
卒業後は営業職として、当時の電子製品貿易最大手、定勤貿易に就職。何事にも細心の注意を払い、常に顧客を第一に考える営業姿勢でアップルやテキサス・インスツルメンツ(TI)などの大手から信頼を得ました。32歳で役員に昇格、シンガポール、ドイツ、米国の子会社設立を任され、年収は1,000万元に達しました。
しかしその後、会社の財務リスクの悪化に気付いたため、顕在化する前に自社株を売り払って経営から手を引きました。
従業員重視の経営
労氏は86年、3人の友人と45万元ずつ出資して佳海国際貿易を設立。定勤貿易と同様のビジネスを行わない旨を取り決めていたため、主に輸入業を展開しました。パソコン周辺機器の輸出入を手掛けた他、差別化戦略として、米スリーエム(3M)の大中華地区の代理店になり、テープや粘着剤を販売しました。
従業員を大切にする経営方針を掲げて、ミスを許容し、その中から学ぶことを大切にしました。ある従業員が1,000万元の損失を出した際には、顧客やサプライヤーへの説明に連日同行しました。まずは状況の改善に努め、責任の追及は後回しにしました。
また、地元を離れて暮らす従業員に対して、生活安定のために住宅購入の頭金支払いを援助しました。
過去32年は黒字経営が続いており、離職率0%の記録を更新しています。
貿易業の経験で経営改革
独立して3年後、古巣の定勤貿易は強引な拡大路線があだとなり、倒産しました。一方、佳海国際貿易は事業が軌道に乗り、投資部門を設立。02年に騰輝電子に投資し、労氏は副董事長に就任しました。ただ、経営理念の違いから、10年に董事会を離れました。
騰輝電子は11~12年、年間3億元以上の赤字を計上しました。負債比率は93%に達し、銀行からは10億元の融資を断られました。業界関係者はいずれも同社の将来に悲観的で、誰もが危ない橋を渡ることを敬遠する中、労氏は董事会の招集に応じ、董事長に就任しました。1,000人余りの従業員を守ることが、自身に課せられた社会的責任だと考えました。
経営体制はほぼ変更せず、改革に取り掛かりました。貿易業の経験を製造業に取り入れ、レッドオーシャンの携帯電話やパソコンなど消費者向け電子製品は避けて、軍需、航空、自動車、第5世代移動通信(5G)などのハイエンド製品市場に注力しました。海外事業では代理店経由での販売をやめ、英国、米国、ドイツに子会社を設置しました。
認証取得で商機拡大
さらに、13年末にOEM(相手先ブランドによる生産)認証チームを設立。ライバルに先駆けて国際規格の認証を受けることで、商機拡大を目指しました。認証取得に特に手間が掛かったのは、防衛・宇宙航空産業界の品質マネジメントシステム国際規格「AS9100」でした。当時、AS9100の認証取得にこぎ着けたのは、騰輝電子と、100年以上の歴史のある電子部品・機能性樹脂材料メーカー、米ロジャースのみでした。労氏はその時の苦労について、「1年かけて認証を取得し、やっとロールス・ロイスのエンジンの受注できた」と語っています。
専門ではない技術面では、全力で研究開発(R&D)チームを支援しました。大まかな方向性を決め、進捗(しんちょく)状況を確認しますが、資金や人材の調達は裁量に任せました。
一方、得意とする国際貿易業のリソースを生かし、営業担当者により良いプラットフォームを提供、イノベーションを推奨することで、十分な力が発揮できる環境を整えました。
この他、従業員の結束と士気を高めるために持ち株制度を導入しました。「倒産寸前だった企業には、誰も投資しないだろう」という見方もありましたが、労氏の手腕は、董事長就任から3年の業績データが証明しており、海外のプロ経営者から投資の約束を取り付けることができました。その後、100人の従業員が私財から投資して株主になりました。
騰輝電子は16年、黒字に転換し、EPSは8.69元に達しました。19年4月には念願の上場を果たしました。
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